今月の季語(四月) 春のバラ科の花々
薔薇といえば初夏の代表的な花の一つですが、あの薔薇はバラ科バラ属の植物です。美しく芳しいバラ属に先行して、「属」違いのバラ科が、意外なほどあれもこれも春たけなわのころに花盛りを迎えます。コート無しで浮かれ出る今日このごろ、バラ科に注目してみませんか。
既に花期を過ぎた〈梅〉もバラ科でしたが、今ならばやはり〈桜〉でしょう。今年の開花宣言は三月二十一日でした。〈桜〉がらみは改めて言うまでもなく、〈花を待つ〉ことから始まって、三分、五分、万朶と咲き加減を追う季語、〈朝桜〉〈夕桜〉〈夜桜〉と一日の時間帯で味わう季語、〈楊貴妃桜〉〈御衣黄〉など種類を示す季語等々、非常に豊かです。
人はみななにかにはげみ初桜 深見けん二
咲き満ちてこぼるゝ花もなかりけり 高浜虚子
夜桜やうらわかき月本郷に 石田波郷
まさをなる空よりしだれざくらかな 富安風生
山又山山桜又山桜 阿波野青畝
花の形が桜とそっくりですが、花柄が長くさくらんぼのように垂れているのが〈花海棠〉です。
海棠に乙女の朝の素顔立つ 赤尾兜子
六月頃実るさくらんぼも今が花盛りです。種類によって花の色も形が異なりますが、桜より花が密生している印象です。
桜桃の花みちのべに出羽の国 角川源義
〈山桜桃(ゆすらうめ)〉は文字通り栽培種ではないさくらんぼのイメージです。我が家にもありますが、例年桜の開花宣言よりかなり早く咲き出します。が、今年はまさに二十一日に初花を観測(?)しました。
一人居の時の長さよゆすらうめ 細身綾子
〈こでまり〉〈雪柳〉はバラ科シモツケ属です。シモツケ(繍線菊)と言われてみると確かにそういう花の付き方をしています。バラ科と思って眺めたことはありませんでしたが、近づいて一花一花を見つめてみると五弁の花は極小の苺の花のような風情です。ちなみに〈苺の花〉もバラ科です。
小でまりの愁ふる雨となりにけり 安住 敦
八方に触手さゆらぐ雪柳 横山房子
花の芯すでに苺のかたちなす 飴山 實
〈山吹〉はバラ科ヤマブキ属。緑の葉が同時に多く出ますが、鮮やかな黄の花は遠くからも目立ちます。
あるじよりかな女が見たし濃山吹 原 石鼎
〈梨の花〉は鳥取の県花ですが、我が家の近隣一帯(多摩地方)でもポピュラーな花です。桜より一回り大きい白い花をつけます。
梨咲くと葛飾の野はとのぐもり 水原秋桜子
〈林檎の花〉〈榠樝(かりん)の花〉〈杏の花〉〈李の花〉〈木瓜(ぼけ)の花〉〈草木瓜の花〉まだまだあります。ブラックベリーやラズベリーもバラ科です。そう思って眺めると、どれもよく似ているように見えて来て面白いものです。
そして本家のバラ属の薔薇はというと、今はまだ芽です。
薔薇の芽や校正のペンポケットに 原田青児
初夏にむけてみるみるほぐれていきますから、お楽しみに。(正子)