今月の季語(五月) 端午
五月五日はこどもの日。そして立夏です。今年二〇一七年の場合は、と付け加えておくのが正確でしょう。〈こどもの日〉は政府によって定められた休日として、カレンダー上に赤色で記されている日ですから、毎年この日です。一方〈立夏〉は二十四節気の一つですから、日付がずれることもあるのです。
小鳥屋に兎も亀もこどもの日 成田千空
プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷
今、五月五日=端午の節句なのでは? と思いませんでしたか。〈ゴールデンウィーク〉の空には〈鯉幟〉がはためき、家の内には〈武者人形〉や兜などの武具が飾られます。そして和菓子屋のケースには、〈粽(ちまき)〉や〈柏餅〉が並んでいるのですから。
寝袋をかつぎ黄金週間へ 滝沢伊代次 ※黄金週間は、〈春〉
畳まれて眼の金環や鯉幟 有働 亨
雀らも海かけて飛べ吹流し 石田波郷
東京は墓多き街武具飾る 田中裕明
粽解く葭の葉ずれの音させて 長谷川櫂
生きてゐることに合掌柏餅 村越化石
〈端午〉の五月五日は本来は旧暦の五月五日です。今の暦に移すと、今年は五月三十日がその日にあたります。ただ、三月三日の上巳の節句(雛祭)を新暦の三月三日に祝うように、端午の節句も、何の疑いもなく新暦で祝っている私たちです。五月三十日には柏餅ももう買えませんし。毎年のように新暦旧暦が取り沙汰されるのは、今では七夕くらいでしょうか。
菖蒲の日父子のごとくに舟を寄せ 友岡子郷
端午の節句を〈菖蒲(あやめ)の日〉とも言うのは、菖蒲を軒に吊したり、湯に入れたりするからです。菖蒲と尚武(しょうぶ)の掛詞ですから、あやめという優しい響きに反して勇ましい季語です。
〈菖蒲(しょうぶ/あやめ)引く〉は端午の節句に使うため、水辺で菖蒲を刈ること。
菖蒲ひく賤の子すでに乙女さび 飯田蛇笏
〈菖蒲葺く〉は五月四日の夜、軒に菖蒲を葺く風習を指します。火災避けのまじないでもあったようです。
色町にかくれ住みつつ菖蒲葺く 松本たかし
そしておなじみの〈菖蒲湯〉は、五月五日に菖蒲を浮かべてたてる風呂のこと。
さうぶ湯のさうぶ寄りくる乳のあたり 白雄
菖蒲の季語は思いのほか多く、このほか〈菖蒲酒〉〈菖蒲の帷子〉〈菖蒲の鉢巻〉〈菖蒲兜〉〈菖蒲刀〉〈菖蒲打〉〈菖蒲の根合せ〉〈薬玉〉等々。〈六日の菖蒲〉というものもあり、これは〈十日の菊〉に似ています。翌日の何かを珍重したり、役立たずと呼んだり、ご先祖さまの発想は愉快です。
ちなみに端午の節句の菖蒲は〈花菖蒲〉とは別物です。花菖蒲はアヤメ科、菖蒲はサトイモ科。アヤメ科のほうは、大きな蝶のような花を頂に掲げますが、サトイモ科のほうは花茎の中ほどに黄緑の小花を穂のように密生させます。水辺へ菖蒲を引きに行くときは、間違わないようにご注意。
乾坤に根引きの菖蒲よこたはる 三橋敏雄
てぬぐひの如く大きく花菖蒲 岸本尚毅
(正子)