今月の花(六月) 藻の花・梅花藻
「梅花藻の花はまだ咲いていないかしら?」
静岡県三島市で折々クラスを開いている私は、場所を貸していただいているお花屋さんの奥様に聞きました。空の青さと白い雲を見ていると本格的な夏に入る予感がしました。
「自宅の裏にももう咲いていますよ。ごらんになりますか?」
三島の梅花藻の郷といわれている場所や、時期には蛍が飛ぶ源兵衛川ならあるいは、と思っていました。この街には富士山の伏流水が二百年近くもたって地上にでたせせらぎがいたるところにあります。新幹線の三島の駅に降り立つと深呼吸をしたくなるのは三島梅花藻を育てているこの水が浄化をしている空気のせいに違いありません。
案内された家の裏にいくときらきら光る水の中に一cmほどの純白の花をつけた三島梅花藻がたくさん咲いていました。きんぽうげ科の白い花の中心は黄色で、長く引く緑色の藻の上で、また水の下で流れに身を任せて揺れていたり、水面に顔を出した花もたくさんあります。緑の藻の上に白い点々をうったような花たちはゆれながら、一輪一輪が夏の空にしっかりと顔を向けて咲いていました。
三島は詩人の大岡信さんの出身地です。昨年亡くなられた大岡さんの詩には水がよく出てきます。清水町には日に百万トンの湧き水のある柿田川湧水群があります。数十年前工場の排水によって汚染されたときには、地元の皆さんによって元の清流に戻そうという運動がおこり、大岡さんも「故郷の水へのメッセージ」という詩を寄せました。今は水質はもとに戻り私はそこで青い羽根をもつ鳥の宝石といわれるカワセミを何度も見ました。魚もたくさんいて、もちろん季節になると梅花藻も花を咲かせます。
清流にしか咲かない潔癖な梅花藻は 年間の水の温度が十四度前後と一定していることを好み、三島だけではなく、滋賀県、兵庫県、福井県などにも群生地があり、皆さんがこの梅のような愛らしい花を楽しみにしていると聞きました。今年もそろそろ梅花藻の白い花の見られる頃です。(光加)