浪速の味 江戸の味(三月) 花見だんご【言問団子(ことといだんご)・江戸】
日一日と陽射しが春めいてくるこの頃、そろそろ気になるのが今年の桜です。先日発表になった開花予想によると、東京の桜は三月末には満開を迎えるようです。
この時期の和菓子といえばまず思い浮かぶのは「桜餅」ですが、その桜餅の発祥の地として名高い長命寺のほど近くに「言問団子」の店があります。
「名にしおはばいざ言問はん都鳥我が思ふ人はありやなしやと」在原業平の和歌にちなんで名づけられた団子の店は、隅田川に架かる言問橋より少し川上、桜橋と白鬚橋との間に楚々とあります。江戸末期、郊外の景勝地として知られた向島を尋ねる人々の求めに応じて手製の団子と渋茶を呈したのがこの店の始まりとか。
団子は白、黒、淡い黄色の三色で、どれも内側からほのかに春の光がもれているような上品な色をしています。色の上品さと対照的なのはその大きさです。さすが労働者の町江戸らしく大振りで食べ応えがあり、これこそ江戸前と思う所以でもあります。
江戸の花見の名所としての墨堤は上野、飛鳥山より後発ですが、堤を歩きながら、また舟からと、他ではなかなか味わえない花見ができると昔も今も多くの人を集めています。
浅草寺に近い吾妻橋から言問橋、桜橋と堤を遡ると、花見の最盛期でも人の数は徐々に減っていきます。そぞろ歩きの疲れをいやしてくれる花見だんごで一服しているうちに、春の陽ざしは傾いてゆきます。
花びらの降りかかりくる団子かな 光枝