浪速の味 江戸の味(六月) 鱧の皮(浪速)
あとひと月で七月である。七月の京阪は、祭に始まり祭に終わる。中でも京都の祇園祭、大阪の天神祭は熱気で暑さも最高潮になる。そんな祭にかかせないのが「鱧」である。海産で、鰻に似た全長一メートルの円筒状の硬骨魚である。鋭い歯を持ち、噛みつく習性を持っている。「食む(はむ)」がなまってはもになったとも言われている。
小骨が多く、骨抜きではとれないので骨切りをする。腹開きした身を皮を下にして、身と骨だけ二~三ミリ間隔で切ってゆく。熟練を要する技である。淡泊なうま味を生かし、白い花のような湯引き鱧、照り焼き、天ぷら、鱧鮓、鱧のおつゆなどのごちそうになる。練り製品の原料にもなる。大阪では、残った皮をつけ焼きにして「鱧の皮」として蒲鉾屋で売っている。
大正三年に発表された上司小劍作の小説『鱧の皮』は、当時の大阪商人の暮らしぶりをいきいきと描いている。小説の中に「鱧の皮、細う切って、二杯酢にして一晩ぐらゐ漬けとくと、温飯に載せて一寸いけるさかいな。」という会話が出てくる。捨てるような部分も生かすのが大阪商人の知恵である。鱧の皮を胡瓜揉みと和えた酢の物は「胡瓜のざくざく」という酒の肴にもよろしい一品となる。
まかなひに安うてうまし鱧の皮 洋子