カフェきごさい「ネット句会」(2020年5月)飛岡光枝選
18なにごともなかつたやうに花は葉に 良子
花が終わり葉桜の季節がやってくる、この自然のサイクルが今年はことのほか心に響きます。普遍性を持つ立派な一句です。
20ふらここに座り涙を拭く子かな 良子
過不足ないことばの運びで胸に響く句となりました。
24疫病の渦巻く地球わさび摺る 隆子
「山葵」ならではの一句。「摺る」として思いの強さが増しました。
25何処までも行ける切符を夏の雲 勇美
夏の雲の代表が積乱雲、季語では「雲の峰」としてよく登場します。この句も「雲の峰」としてもより決まった句になりますが、少々決まりすぎるかもしれません。「夏の雲」は上々のとりあわせ。「どこまでも行ける切符や夏の雲」。
28結婚記念日夫の菜の花スパゲッテイ 桂
一読、緑と黄色が鮮やかなスパゲッテイが目に浮かびます。美味しかったに違いありません。「夫の」が決め手。
47筍を湯がく大釜湯の拳 桂
筍を美味しく湯がくには家で一番大きな鍋が必要です。「大釜」で湯がいてもらったら筍も冥利につきるというもの。この句の見どころは言うまでもなく「湯の拳」。
【入選】
1卯の花をつまみに越の冷酒かな 祖笠
談林風?冷酒らしくすっきりした一句。
2永き日を手を洗ひまた手を洗ひ すみえ
この春を描いた俳句の力を感じさせる一句。「を」が説明。「永き日や手を洗ひまた手を洗ひ」。
5散歩道葉も囀りぬカナメモチ 光尾
「カナメモチ」の赤い新葉の鮮やかさを描きました。葉が囀るという感性が新鮮です。
6地球中の換気をせよと春嵐 光尾
「春嵐」に願いを込めて。「の」は不要。「地球中換気をせんと春嵐」。
7天麩羅によき頃合ひや柿若葉 桂
柿若葉のみずみずしさ。
9悲しみを背負ひしままに五月くる 都
「五月」ならではの思い。
14かぎろひて岩肌やさし武甲山 都
雄々しい山の春の姿。
16スクールバス桜吹雪を行きにけり 勇美
「路線バス」「夜行バス」「スクールバス」それぞれ違うのは言うまでもありませんが、この句はスクールバスで成り立ちました。「行きにけり」という力強い言葉は、この春の思いに沿うもの。
23ほんたうは少し年上さくら餅 良子
恋の歌でしょうか。長年の付き合いの女友達同士かもしれません。
26花韮の風の形に咲き乱る 今日子
より情景(姿)がはっきりわかるように言葉遣いご一考を。「花韮は風の形に咲き乱れ」。
29光満つ緑の中の遅桜 和子
「遅桜」の説明の範疇なのが惜しい。「光満ち緑の中の遅桜」など。
31山の湯やどつぷり浸かる花疲れ 守彦
「どつぷり」に作者の様子も心持もよく表現されています。
34春惜しむ我を忘れし姉と居て 弘道
季語がいい。「我を忘れて」という、句とは別の意味の慣用句があるので工夫が必要かもしれません。「吾を忘れし」など。
43未だ寒し子のもぐり込む春炬燵 守彦
上五が説明的にならないようにとの工夫がみられますが、かえって協調されてしまいました。素直に「まだ寒く子のもぐり込む春炬燵」など。
46葉桜やたつた二月まへのこと 雅子
「葉桜」の季節ならではの思いですが、今年はことのほか感じます。
【投句より】
「桜餅食へばいずこの葉かと思ふ」
食へば、思ふなど言葉(特に動詞)が多すぎると句がすっきりしません。「どの山のさくらの匂ひ桜餅 飴山實」ご参考に。「いずこ」→「いづこ」。
「松ひとつたおれてさみし木挽町」
木挽町の松といえば辨松でしょうか。季語を探してみてください。「松ひとつたふれ春行く木挽町」・・・。
「逆さまな虫を返して春惜しむ」
虫をひっくり返しなどしている様子はいかにも春らしいのですが、「逆さまな虫を返している」という構造が句を複雑にしてしまいました。よりシンプルに。
切腹のはやらぬ世なり冷し酒 光枝
【6月のネット句会のお知らせ】
5月31日までに3句を投句ください。6月1日中に投句一覧をアップします。来月はみなさんの選もアップしたいと思います。詳細は6月の投句一覧開示の折にお知らせします。みなさま、どうぞお元気でご健吟を!(店長・飛岡光枝)