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十一月 凩・木枯

caffe kigosai 投稿日:2022年10月18日 作成者: masako2022年10月19日

今年はいつまでも蒸し蒸しと暑く、夏物が仕舞えないとぼやいていましたが、十月初旬にいきなり真冬のように冷え上がりました。あわてて冬物を出した方も多いでしょう。季節は確実に移っていますが、ゆきあいのなだらかだった昔が懐かしくもあります。

ともあれ今年の立冬は十一月七日。〈初冬〉〈はつふゆ〉に入ります。

冬来れば母の手織の紺深し         細見綾子

立冬のことに草木のかがやける      沢木欣一

〈立冬〉〈冬来(きた)る〉〈冬に入る〉〈今朝の冬〉は同義に使えます。沢木・細見夫妻はともに、冬と呼ぶようになった今日の、昨日までとは異なる景や感慨を汲み取っています。

立冬と言葉も響き明けゆく空        髙柳重信

冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ       川崎展宏

同義の季語であっても文字数やリズム、音の響きが異なります。Tの音や促音の入る立冬は弾けるように、「ふ」「ゆ」の音はやさしく響きます。展宏の句は〈冬〉の項の例句ですが、私はいつも冬に慣れきっていないころの句として味わっています。

湯にゆくと初冬の星座ふりかぶる    石橋秀野

初冬の音ともならず嵯峨の雨        石塚友二

〈初冬〉も同様に「ショトウ」と読むか「はつふゆ」と読むかによって印象が変わります。銭湯へ行くときの寒さは「ショトウ」、ひそやかな雨は「はつふゆ」―必ずしもこじつけなくてよいのですが、使い分けを意識したいものです。

これまでもたびたび触れてきましたが、うっかりしやすいものに〈末枯〉と〈枯〉の使い分けがあります。〈末枯〉はまさに文字通り「末」(先端)のほうだけが枯れることを指し、秋の季語です。

名を知らぬまま末枯のうつくしき             有澤榠樝〈秋〉

草山の綺麗に枯れてしまひけり              正岡子規〈冬〉

末枯と枯とでは、残り方もその色合いも異なるはずです。脳内に絵を描きながら味わいましょう。

そしてまさにこの間を吹く強い北風が〈凩・木枯〉です。文字通り「木」を「枯」らす風です。季語の「枯」は枯死することではなく、木の葉を散らしきることですから、木々に葉が無くなったあとの風を〈凩・木枯〉と呼ぶ必要はありません。〈北風〉〈空風〉〈○○颪〉など応じて詠み分けてください。

凩の果はありけり海の音                     言水

海に出て木枯帰るところなし                 山口誓子

「木」に関わる風を海と取り合わせる発想は江戸時代から存在しました。おそらく誓子も言水の句を知っていたことでしょう。「あり」と「なし」は対極にある語です。変貌を詠んだ前句と、消滅の後句、違いを味わってみましょう。誓子の句は昭和十九年作。特攻隊と重ねて鑑賞されたこともあったようです。

木がらしや目刺にのこる海の色              芥川龍之介

こがらしの樫をとらへしひびきかな           大野林火

木枯にさらはれたくて髪長し                 熊谷愛子

凩にまなこ輝く一日かな                     山田みづえ

汝を帰す胸に木枯鳴りとよむ                藤沢周平

 

さて、あなたの凩は、どこをどんな音で吹くのでしょうか。(正子)

 

今月の花(十一月) まゆみの実

caffe kigosai 投稿日:2022年10月16日 作成者: mitsue2022年10月16日

向かって左がまゆみの実(福島光加・作)

 
この秋、帯広で門下といけばなデモンストレーションをすることになりました。 現地の花屋さんに花材を発注しましたが出発直前にご不幸があり、札幌の花屋さんなら一日かければ花材を帯広に送れることから、懇意の東京の花屋さんに橋渡しをお願いしました。

 その頃、東京の私の教室には、美しいピンクの実のたくさんに付いた「まゆみ」が届いていました。ニシキギ科の「まゆみ」は、その名の様にかつては弓を作ったほどしなやかで強く、秋には薄いピンクや白の愛らしい実が付きます。その四角の実は割れてかわいらしい赤い種をみせてさがります。この性質からでしょうか、「まゆみ」は女の子の名前に付けられます。

 北の大都市札幌の市場に「まゆみ」はあるのだろうか。あれば水の入ったチューブに枝の元をいれて発送してくれれば日高山脈を越えても鮮度を保てると思い、数種類の花や葉の発注リストの最後に「まゆみ」を付け加えました。この実を秋の花や枝といけたらさぞ美しいことでしょう。

 帯広のホテルには、大きな段ボール箱が届いていました。古新聞に包まれた花材を次々と開けてはバケツに入れていると、薄い緑の葉を多数つけた70センチくらいの枝が10本でてきました。「これがまゆみ?」東京の花屋さんに確認すると、確かに札幌に「まゆみ」を注文したという返事。でも、美しいピンクの実の姿はひとつもありませんでした。
 
 気を取り直して、他の花材と「まゆみ」をホテルのシャワールームに並べたバケツに、元を水の中で切る水揚げをして入れていきました。

 翌日、この水揚げがきいてピンと新鮮な姿になった他の花材たちの中で、葉だけの「まゆみ」はすでに乾燥がはじまり下を向いていました。一昼夜水をつけないで運ぶことを想定して花材を選んだので、実の無い「まゆみ」を注文することはありえません。注文に「まゆみの(実)」と強調すればよかったのでしょうか。

 がっかりしている時間はありません。帯広出身の門下のご実家の農場に9月に下見に来た時に目をつけていて、切るのを許していただいたものがありました。さくらんぼうをつける桜の枯れ枝、エゾ松、そしてアナベルやコキア。アナベルは切るとすぐ元をたたいてミョウバンを刷り込みました。水揚げの悪いコキアは根ごと堀り、土をつけたままバケツに入れて車に積み込みました。

 広い空の下に広がる日高の山々。帯広の碁盤の目のまっすぐな道路を花材を積んだ車は会場へとスピードを上げていきます。

 「待って!!とまって!!」私の目に飛び込んできたのは道路沿いの緑の中の赤い点。駆け寄ると、それはまさに葉の中にピンクの実をさげている「まゆみ」でした。

 「まゆみよ!」「へえ?ここでまゆみなんて見たことがない」。帯広に住んでいる門下は不思議がりました。道路際の持ち主のわからない「まゆみ」の枝を数本いただきました。葉を取っていくと初々しいピンクの実が現れ、「まゆみ」はデモンストレーションのフィナーレに、千葉から送らせた青竹とともにいけられました。竹も北海道で入手するのは困難なのです。

 いけばなのデモンストレーションは帯広では初めてと聞きました。「蕎麦の茎が作品になるのだ」「自分の家の周りに植えているコキアもいけばなに使えるのね」。ご自分の名前がまゆみで、まゆみを初めて見て自分の名前を改めて考えて興味深かったという声も寄せられました。

 観客の皆さんの拍手と笑顔の中、数々の花材を提供してくださった地元帯広の皆様に心から感謝しました。

 そして、「まゆみ」は?感謝すべきは神様、としか私には思えなかったのです。「まゆみ」はわたしにとって特別な木になりました。(光加)

カフェきごさい「ネット句会」10月 ≪互選+飛岡光枝選≫

caffe kigosai 投稿日:2022年10月8日 作成者: mitsue2022年10月11日

【連中】桂 すみえ 良子 都 隆子 酔眼 光尾 雅子 利通 裕子 光枝
 
≪互選≫

光尾選
ふるさとへ戻りしここち温め酒 隆子
摘みたてのみょうが華やか道の駅 雅子
遠ざかるバグパイプの音秋澄めり すみえ

都選
桃太郎なんども生るる夜長かな 裕子
初風にバグパイプの音聞こえしか 光尾
日ぐらしや三つ四つをやり残し 光尾

裕子選
八千草の土手に分け入る峡日和 利通
夢二の猫飛び出しさうな秋扇 都
小鳥来てにはかに母のゐますかに 隆子

すみえ選
くノ一の伊賀の案山子も黒づくめ 隆子
両の手に糠しつとりと今年米 雅子
花芒二三本活け良夜かな 雅子

良子選
老いてなほお洒落上手やラ・フランス 桂
夢二の猫飛び出しさうな秋扇 都
ふるさとへ戻りしここち温め酒 隆子

桂選
話したきことのありさう林檎むく 良子
ふるさとへ戻りしここち温め酒 隆子
遠ざかるバグパイプの音秋澄めり すみえ

雅子選
八千草の土手に分け入る峡日和 利通
桃太郎なんども生るる夜長かな 裕子
コスモスを束ねてみても淡きかな 良子

酔眼選
両の手に糠しっとりと今年米 雅子
話したきことのありさう林檎むく 良子
新走り浮かぶ顔みなあちら側 光枝

隆子選
話したきことのありさう林檎むく 良子
引き戸開け古書噎せ返る残暑かな 酔眼
盆帰省義手にカフスを止めなほす 利通

利通選
桃太郎なんども生るる夜長かな 裕子
小鳥来てにはかに母のゐますかに 隆子
故郷の地酒を提げて衣被 裕子

≪飛岡光枝選≫
【特選】
新蕎麦を待つ小上がりのスポーツ紙 酔眼

小うるさい(失礼!)蕎麦屋の方が美味しい(感じがする)という思い込みからか、新蕎麦と言うと少々かしこまった句が多いなか、この句のざっくばらんな様子が好もしい。スポーツ紙を読みながら待つ新蕎麦。たぶん記事の内容は覚えていないのではないでしょうか。

初風にバグパイプの音聞こえしか 光尾

9月8日、96才で亡くなったエリザベス女王。波乱に満ちたその生涯と君主としての存在感ゆえ、世界中で多くの方が国葬中継を見守りました。その一コマを切り取り、愛し親しんだバグパイプに送られる女王を悼む静かな一句となりました。将来句集に掲載の際は「エリザベス女王逝去」などの前書きを。季語の「初風」がいい。

小鳥来るにはかに母のゐますかに 隆子

秋の明るい日射しのなか、とりどりの小鳥がやってきます。小鳥の声に包まれていると、ふと身近に母上の気配が、という句です。母上が小鳥となってやってきたという句ではありません。原句は「小鳥来てにはかに母のゐますかに」。

【入選】
老いてなほお洒落上手やラ・フランス 桂

弾むようなリズムが句の内容とよく合っています。

桃太郎なんど生まれる夜長かな 裕子

この子は今、桃太郎がお気に入り。桃太郎が桃から生まれるハイライトを、今夜は何回読まされるのやら。桃太郎が日本中で生まれているのだろうと思えるのも、「夜長」の季語の力でしょう。原句は「桃太郎なんども生るる夜長かな」。

いちじく捥ぐ大きな葉かげ母の声 すみえ

木漏れ日のなか、母上の明るい声が聞こえます。秋の日射しを感じる一句。原句は「いちじく捥ぐ大き葉かげに母の声」。

ふるさとへ戻りしここち温め酒 隆子

寒さを感じ始める秋の終わりは、大の大人でも心細くなる季節。季感をよく捉えた一句です。季語の「温め酒」は「あたためざけ」と読み「ぬくめ酒」は傍題。

くノ一の伊賀は案山子も黒づくめ 隆子

忍者の伊賀では当たり前ですが、くノ一と言って愉快な一句になりました。でも、黒づくめの案山子では、鴉が仲間だと安心して寄ってくるような気がしますが・・・。

竹伐らんやをら取り出す肥後守 都

孟宗竹を伐るには肥後守では心細いですが、黒竹などの細い竹なら伐れるのでしょうか。「やをら取り出す」の勢いで、肥後守がりっぱな日本刀のような風情。

盆帰省義手にカフスを止めなほす 利通

にぎやかでも少人数でも、親族が集まるお盆の帰省は多くの方にとって大切で楽しみなこと。思いの籠った一句です。

日や月や風や喜び柿たわわ 桂

原句は「日の月の風の喜び柿紅葉」。柿紅葉も美しいですが、上五中七の宇宙の躍動感を受けるには、今まさに命輝く柿の実を置きたいと思います。ご一考を。

次回の「カフェきごさい句会」は12月です。日本中が色づく美しい季節、みなさまどうぞ句作をお楽しみください。くれぐれも体調にはお気を付けて。(光枝)

ネット句会(10月)投句一覧

caffe kigosai 投稿日:2022年10月2日 作成者: mitsue2022年10月2日

10月の「ネット句会」の投句一覧です。
参加者は(投句一覧)から3句を選び、このサイトの横にある「ネット句会」欄(「カフェネット投句」欄ではなく、その下にある「ネット句会」欄へお願いします)に番号と俳句を記入して送信してください。
(「ネット句会」欄にも同じ投句一覧があります。それをコピーして欄に張り付けると確実です)

選句締め切りは10月4日(火)です。後日、互選と店長(飛岡光枝)の選をサイトにアップします。(店長)

(投句一覧)
1 八千草の土手に分け入る峡日和
2 老いてなほお洒落上手やラ・フランス
3 新蕎麦を待つ小上がりのスポーツ紙
4 夢二の猫飛び出しさうな秋扇
5 鵙の贄じつと見てゐる蛙かな
6 桃太郎なんども生るる夜長かな
7 話したきことのありさう林檎むく
8 一粒の葡萄をはこぶ熱の唇
9 草の花幼なじみを訪ねけり
10 黒きまで熟れて大柿枝たわむ
11 円や角太郎も次郎も柿熟るる
12 初風にバグパイプの音聞こえしか
13 秩父ゆく白装束に曼殊沙華
14 他人事の政治いつまで秋の朝
15 いちじく?ぐ大き葉かげに母の声
16 たうがらし庫裡に干されて竹の奥
17 ふるさとへ戻りしここち温め酒
18 小鳥来てにはかに母のゐますかに
19 いわし雲千の手欲しき保育士よ
20 引き戸開け古書噎せ返る残暑かな
21 くノ一の伊賀は案山子も黒づくめ
22 故郷の地酒を提げて衣被
23 摘みたてのみょうが華やか道の駅
24 渡良瀬に雲流れゆく秋彼岸
25 両の手に糠しっとりと今年米
26 竹伐らんやをら取り出す肥後守
27 日ぐらしや三つ四つをやり残し
28 新走り浮かぶ顔みなあちら側
29 盆帰省義手にカフスを止めなほす
30 花芒二三本活け良夜かな
31 遠ざかるバグパイプの音秋澄めり
32 日の月の風の喜び柿紅葉
33 コスモスを束ねてみても淡きかな

「カフェきごさい」ネット句会≪10月≫のお知らせ

caffe kigosai 投稿日:2022年9月25日 作成者: mitsue2022年9月25日

今年の中秋の名月は早く、9月10日でした。全国で綺麗な月が楽しめたのも束の間、つぎつぎに大型の台風が来る秋となりました。みなさまの地域は如何だったでしょうか。被害に遭われた方々へ、心よりお見舞い申し上げます。

「カフェきごさい」ネット句会≪10月≫の締切は10月1日(土)です。どなたでも参加可能です。サイトの「ネット句会」欄から3句ご投句ください。

・このサイトの右側に出ている「ネット句会」欄より、3句を投句ください。

・10月2日中にサイトへ投句一覧をアップしますので、10月4日までに参加者は3句を選び、投句と同じ方法で選句をお送りください。

・後日、参加者の互選と店長・飛岡光枝の選をこのサイトへアップいたします。

秋たけなわの「ネット句会」、みなさまの力作をお待ちしています。(店長)

カフェきごさい「ネット投句」9月 飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2022年9月22日 作成者: mitsue2022年9月22日

【入選】

日一日金色勝る稲田かな  和子

稲田が金色というのはよくある表現ですが、日一日というところで、毎日眺めている稲田が日々重く実っていく喜びが感じられます。ここから一歩でも二歩でも抜け出て詠む工夫をしてみましょう。

【投句より】

まんまるだ童は月を掴まんと

有名な「名月を取てくれろと泣く子かな 一茶」と同じ発想です。より新鮮な句を目指しましょう。

朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会(八月)

caffe kigosai 投稿日:2022年9月22日 作成者: mitsue2022年9月22日

新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい」句会。今月の兼題はサイトより八月の季語「秋果」、花「ブーゲンビリア」、江戸の味「谷中生姜」です。

【特選】
アトリエの静けさに盛る秋果かな  勇美

季語「秋果」は、様々な秋の果実のことです。個々の果物を詠む場合より句が散漫になりがちですが、この句は「秋果」が活きる印象的な一句です。これから絵筆を走らせるのでしょうか、アトリエを包む、秋の日をも感じます。「静けさに盛る」が秀逸。

いただきを埋めつくさんと赤とんぼ  和子

赤とんぼが数多集まるという句は見慣れていますが、「埋め尽くす」とまで言って迫力のある句になりました。シンプルな句の形もいい。原句は「いただきを埋めつくしたり赤とんぼ」。

【入選】
日盛りをブーゲンビリア花溢れ  和子

たいへんシンプルな句。花盛りのブーゲンビリアのみを詠み、読者をブーゲンビリアの日盛りに誘います。原句は「日盛りにブーゲンビリアの花溢れ」。俳句ではこの「の」は不要です。

ほんのりと色づく稲穂風渡る  和子

上五中七では当たり前すぎて句になりませんが、「風渡る」で一気に稲穂が生き生きと動きはじめました。

亡き父の友より届く秋果かな  勇美

ご仏前に届いた果物だと思いますが、何年後かにご家族へ届いた贈り物のようにも感じます。父上のお人柄が偲ばれる一句です。

はじかみを噛んで幼き目に涙  勇美

大人が美味しそうに齧っているのを真似してしまったのでしょうか。少し早かったですね。食卓にはじかみがある、秋のひと日。

しんかんとブーゲンビリア基地の町  光枝

浪速の味 江戸の味(十月) 新豆腐〈大山豆腐〉【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2022年9月20日 作成者: mitsue2022年9月20日

 

山かけ豆腐 蒸豆腐 氷室豆腐

おぼろ豆腐

収穫されたばかりの新大豆で作る「新豆腐」は、甘みのある深い味わいが愛されてきました。日本各地に有名な豆腐がありますが、「大山詣り」で知られる神奈川県大山の名物「大山豆腐」もそのひとつです。

古くから山岳信仰の霊山である大山は、また、農民からは水を司る神として、漁民からは海からの目印として崇拝されてきました。山中の雨降山大山寺は奈良東大寺建立で知られる良辨僧正の開山と言われています。

江戸時代になると、大山では先導師と呼ばれた御師が、各地をまわって布教や大山講の結成に努め、宿泊場所の提供や案内を行いました。江戸の人口が爆発的に増えたことも参詣者の増加に拍車をかけ、江戸の人口が100万人の頃、年間20万人もが訪れたそうです。

そんな参詣客に振る舞われたのが、渓谷の清水で作られた「大山豆腐」です。豊富で清冽な水は、豆腐の保存にも適していたとか。毎年訪れた多くの江戸っ子が大山豆腐に舌鼓を打ち、江戸に戻ったのち大山詣りの土産話として語ったことでしょう。現在でも大山参道に並ぶ御師の宿坊では、工夫を凝らした様々な豆腐料理を味わうことができます。

大山は江戸市中から眺められ、道中手形不要で参詣できる身近な山でした。現在でも東京からの手軽なハイキングコースとして人気です。私が初めて大山に登ったのは高校の遠足、その頃は残念ながら豆腐料理にあまり魅力を感じませんでした。紅葉でも知られる大山の秋、ぜひ新豆腐を味わいに再訪したいと思います。

掌に乗せて掌にあまりけり新豆腐  光枝

今月の花(十月)ななかまど

caffe kigosai 投稿日:2022年9月19日 作成者: koka2022年9月20日

東京のある会館の床の間に大きくいけられた「ななかまど」。葉は黄色がかった薄い緑からオレンジ、そして、赤へと紅葉し、直径五~六ミリほどの艶やかな実の房が葉の間からたわわに下がっていました。十月末の展覧会ではいけることはありますが、その見事なななかまどを大都会の真ん中でみかけたのは、まだ夏を引きずっている九月のごくはじめのことでした。

そのななかまどの葉に傷や痛み、枯れたところがないのは、この作品を生けた作家の方をはじめ、関係者が注意深く毎日手入れをなさっているからでしょう。それにしても、久しぶりに見るあまりにも立派なななかまど、収めたお花屋さんに、秋がもう始まっている北の地から来たものか尋ねてみました。

「これは限られた地域の荷主さんから出されたもので、気候も日当たりも山の最適な場所で、きっと特殊な仕掛けをして大事に育てたななかまどだと思う」という答えでした。もちろんそれがどこの誰なのか、その花屋さんも直接は知らず、その場所に行ったこともないそうです。実際のところ、雨が当たっても条件によっては葉にシミが生じ,葉どうしがすれる風も大敵です。葉をよく見ても水分がなくなって丸まっているものはなく、こういうのをプレミアムななかまど、とでもいうのだろうかと私は写真を撮らせていただきました。

ななかまどは早春、小さな薄緑の葉がお互いをかばうように丸まって出てきて、やがてほどけていきます。葉は奇数羽状複葉、つまり先に一枚、あとは細い葉柄に対についています。

春も遅く、緑を深めた葉の枝先についた花は五弁の小さな花弁をもち、たくさん集まって咲くので遠くからみると白い泡が吹いているように見えます。花をいける時は、花弁がはらはらと散りやすいので気を付けなければなりません。

鳥に食べられずに冬を迎えた秋の赤い実は、雪の中で、葉がすっかり落ちた十数メートルにも達する黒褐色の木肌とよい色のコントラストとなることでしょう。

ななかまどは「七度窯にくべても燃えない」と名前が付いたといわれますが、それだけ瑞々しいということなのでしょうか。名の由来には異説を唱える植物学者もいるということですが、新芽のしたたるような緑色を見ると、この名前が付くほど春の水分を吸って芽吹く美しさから来ているのかとも思います。他に雷電木(らいでんぼく)または雷電(らいでん)という名前でも知られています。

ななかまどの街路樹を最初に見たのは北海道の帯広でした。先日再度訪れたこの町で、つややかな赤、また、オレンジ色の実をつけたななかまどを見かけました。陽の当たるところは紅葉がはじまっていて、その色合いは九月に入っても収まらない東京の酷暑を一瞬忘れさせてくれました。

この十月、私は帯広では初めてのいけばなのデモンストレーションを計画しています。北海道といえば、花屋さんに枝ものはたくさん種類がありそうですが、実はそれほど多くありません。現地の出演者のお知り合いの庭などで、少し紅葉したななかまどを切らせていただき、いけることはできないかしら、さぞ美しいことだろうとひそかに思っています。

「花は美しいけれど、いけばなが美しいとは限らない」勅使河原蒼風家元の『花伝書』の言葉です。この言葉を胸に、どんな花材に会えるか楽しみにしています。(光加)

今月の季語〈十月〉⑪ 秋めく

caffe kigosai 投稿日:2022年9月17日 作成者: masako2022年9月19日

紅葉は秋の季語。でも十月に紅葉は早いよと思う方も多いのではないでしょうか。実は私もこれまではそう思っていました。今年は九月のはじめに長野へ行き、標高が高くなるに従い木の葉の色が変わっていくのを目の当たりにしました。はじめのうちは下界(?)の残暑の記憶を曳いていましたから、病葉? 立ち枯れ? と訝しんでいたのですが、幸いにも紅葉に他ならない桜と真向かうことになり、秋を実感した次第です。

病葉を涙とおもふ齢かな                      齋藤愼爾〈夏〉

霧に影なげてもみづる桜かな               臼田亜浪

すると残暑厳しい下界へ戻ってからも、日を追って様子が変わっていくことを明らかに感じられるようになりました。いつもなら末枯か、せいぜい薄紅葉と思うにとどまる現象であっても、紅葉への一過程としてとらえる眼差しを高山から賜った心持ちでした。

多摩の水すこし激する薄紅葉               山口青邨

末枯といふ躊躇うてゐる景色               後藤比奈夫

私の身辺では薄紅葉というよりは薄黄葉といえましょうか。ほんの少し前までは木々の下に入れば「緑蔭」と思いましたが、今や木の葉を透る日の光がうっすらと黄味を帯びて感じられます。

九月の中ごろ、かつては里山と呼ばれた谷戸を歩きました。ボランティアの方々の丹精の稲が穂を重く垂れ、黄金色の一歩手前の色合いになっていました。また臭木やごんずいの実が、そろそろ遠目に花と見紛うほどに熟してきていました。

柿紅葉貼りつく天の瑠璃深し               瀧 春一

まだ「紅葉且つ散る」には到っていませんでしたが、ときどき拾ったのが柿紅葉でした。コーティングされたようなつややかな柿の葉は紅葉も独特の美しさです。その地に今も実るのは、禅寺丸柿とのことでしたが、原木はわが町内の古刹の境内に今もあります。

禅寺丸柿原木の木守柿                                   正子

棲み古りてここ甘き柿生れる里

拙句でご無礼します。大昔には宮中に献上もされたという甘柿ですが、今では残っているところでのみ出会う存在です。剪定されず、のびのびと大きく育っていることが多いです。

照葉して名もなき草のあはれなる       富安風生

「照葉」は「秋晴」と「紅葉」の両条件を満たして成り立つ季語です。木の葉のみならず、この句のように草の紅葉にも使えるのだと目から鱗でした。

名もなき草という措辞が出てくるのは、「秋の七草」と数え上げられる草があるからでしょう。七種は萩・薄・葛・撫子・女郎花・藤袴・桔梗とされますが、このときの元・里山で見かけたのは薄と葛でした。萩、撫子、女郎花、藤袴、桔梗は花期が早めです。夏のころからあちらこちらで見かけましたから、すでに終わっていたのかもしれません。また若干の手入れが必要な花なのかもしれません。代わりに男郎花、吾亦紅、水引、数珠玉などの剛い植物や、名を知らぬ茸各種を見かけました。タヌキマメ、キツネノマゴなる植物(花も実も)とは初対面。カラスやスズメだけでなく、タヌキやキツネが跋扈する楽しい秋の野でした。

「秋めく」とは秋らしくなるの意。本来は初秋の季語ですが、この程度にまで秋が深まって初めて実感できる気もします。十一月はもう初冬です。十月の野を歩き、秋を堪能してみませんか。(正子)

 

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第三十七回 2026年4月11日(土)13時30分
      (原則第二土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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