今月の季語〈10月〉_月
十月なのに「月」? “十五夜お月さん”の「月」なら九月だろう、と思ったあなた、その感覚はかなり正しい。
ただ現在のカレンダーは太陽と共に回っているので、月の暦とはズレがある。名月の日付も年によって異なる。めでたく九月十五日が十五夜にあたる年もあるが、今年は九月三十日。感覚とは半月ずれるうえ、なんと大型の台風まで来てしまった……。
今年の十月は十六夜の月から始まる。そして二十七日は二度目の月見をする「十三夜」である。
「十三夜」とは、名月と呼ばれた月がだんだん細くなって消え、新月となってまた太り始めて次の満月を二日後に控えた夜のこと。今年の十月はそこまでの過程をたっぷり楽しんでみよう。
名月のあと、月の出が少しずつ遅くなっていく。まず十月一日は“いざよう”月の出る十六夜。いざようとは、ためらうの意。
十六夜の竹ほのめくにをはりけり 水原秋櫻子
以降、立って待つ、座って待つ、寝て待つ……と気の利いた名前で月を呼び習わす。
古き沼立待月を上げにけり 富安風生
帯ゆるく締めて故郷の居待月 鈴木真砂女
星ひとつ連れて上りぬ寝待月 大峯あきら
更待の月荒涼と岬の果 古沢太穂
名月のサイクルの月と別れたあとは、また新しい月が満ちゆく過程を見守ろう。夜の気温がみるみる下がっていくのを体感することにもなるだろう。そして「十三夜」。この日の少し丸みに欠けた月を「十三夜月」「後の月(のちのつき)」と呼ぶ。名月の華やかさはないが、むしろそこを楽しむという、独特の美意識に立った季語である。
月よりも雲に光芒十三夜 井沢正江
その日に台風が来ないよう、あとは祈るしかない。(正子)