今月の花(6月)スズラン
5月1日。フランスではメーデーとともにスズラン祭りの日です。それぞれの幸せを願ってこの清楚な花の贈物が交わされます。新緑も濃さを深めていく中、この日、街の中で特に目につくのがバラやカーネーションではなくスズランというところがこの国の繊細でしゃれた文化の一面を語っているように私には思えます。その歴史は16世紀、時のシャルル9世が臣下の女性たちに贈ったのがはじまりといわれています。
日本では君影草と呼ばれ、主に北海道、本州の低い山などに咲きます。一本の茎に数輪下がって咲いた花の葯(やく)は少し黄色がかっています。葯とは雄蕊の先端についた花粉の入った袋で、小さなうつむき加減の花をのぞき込まないとわからないかもしれません。
葉や花がより大きいスズランをみかければ、ヨーロッパ原種のドイツスズランのことが多く、葯は緑がかっています。白い花を引き立たせるのは幅広の緑の葉で少し波打っています。スズランはフィンランドの国花でもあります。
カナダのトロント支部にいけばなのワークショップにいった時、支部長は旧知のカナダ人のGで、宿泊は彼の自宅にという申し出をうけました。家に到着後、Gの数十年来のパートナーとお茶を飲み、2階の私のベッドルームとなる部屋に案内されました。ドアを開けると木製のとても古い引き出しがあり、Gはその一番下の段を少しあけ、「寒かったら羽織るものがここに入っているから」といって部屋をでていきました。
棚の上には素朴なアンテイークの銀器にスズランがさりげなく20本ほど。
東京から飛行機を乗り継いでやっと着いたトロント。明かりを消しベッドに倒れ込むと、闇の中でかすかに漂いはじめるスズランの上品で涼やかな香りが、少しずつ神経の緊張を緩めていくのでした。技術を駆使して花をいけ、生徒にも慕われて活躍しているGが、あえて庭に咲いているスズランを何気なくいけた心づかいでした。
5月から6月の花嫁が式当日に持つブーケの中にこの花を選ぶことがあります。それは純白の愛らしい花の形のためだけでなく、彼女を落ち着かせる香りも理由のひとつでしょう。季節が巡ってくるごとにこの香りから晴れの日を懐かしく思いだすような、そんな人生であるようにと願うのです。(光加)