今月の花(二月)山茱萸
春の兆しが伝わってくるのは花店の店先に黄色の花を見かけた時です。1月の末にはこの季節ならではのラナンキュラスやチューリップ、フリージアや菜の花など黄色い花でにぎわいます。眺めるだけでこちらまで温かさが届けられる気分になります。
一方このころは学校では試験の季節です。
私たちの流派でも師範の最高の資格とその一つ下の資格獲得のため、このころ年に一回、家元立ち合いの試験があります。その一つに時間内にその日与えられた花材でいける試験があります。詳しいことはここでは述べられませんが、当日その場で発表される花材はこの季節ならではの花材です。長い年月いけばなを勉強してきた国内外からの受験者は、その日が近づくと今年の試験には何の花材を使うのかしらと気になるのです。
花ものと同じく、黄色の花をつけた花木(かぼく)もこのころから登場します。山茱萸、連翹、万作と、黄色の花たちが早春の光に呼応して固いつぼみをほころばせます。
初稽古も終わり通常のクラスに戻ったころ、スタジオにまっすぐな線の褐色の枝の束が届けられました。目を凝らしてみると、小さなころりとした花芽の先がかすかにとがっています。他の枝には黄色い花があちこちとほころびはじめていました。山茱萸です。
枝は素っ気ない位の直線ですが、矯めてみると意外と思うような線が作れます。幹に手が触れると、茶色の樹皮はところどころ薄く剥がれます。太い枝は鋏で一度にはなかなか切れないのですが、鋏で注意深く切れ目を入れながら力をかけて曲げます。力の入れ加減によっては枝が折れたかと思うかもしれません。直径の3分の1くらい繋がっていれば水は上がっていき、花も開き、春に宿る生命力の強さに目を見張ります。
ミズキ科の山茱萸は18世紀の初頭に日本に渡ってきたと言われ、成長すれば5メートル以上の高さになります。うららかな雲一つない青空に枝を広げ、小さな黄色い花を無数に付けたさまは、他の花木を率いていよいよ到来した春のにぎやかな空間の出現を予感させます。
「サクラサクーー」かつて試験の合格を知らせる電報は、さくらにたとえられて届きました。さて、私たちの流派の試験の結果はもし植物に例えれば、今年はなんの植物が吉報となって心待ちにしている受験者たちに伝えられるのでしょうか。(光加)