a la carte_草餅
吉野山の中千本にある旅館「櫻花壇」での観桜句会が先週ありました。奈良支部のお世話で、十年以上続いています。
「櫻花壇」は、山の傾斜地に建っているので、表玄関から見ると、二階建に見えるのですが、実は四階建という吉野建です。これまで、五分咲き、満開、花吹雪、葉桜と様々な吉野の山桜を、大広間から一望し、楽しんできました。
今年は、開花が早かったので、奥千本は満開でしたが、中千本は、ほとんど散っていました。
「櫻花壇」は、皇室御用達の宿でした。また、文人、墨客の宿として知られています。谷崎潤一郎は、昭和五年の秋に、一ケ月余り、「櫻花壇」に滞在し、『吉野葛』が生まれました。(昭和六年一月~二月「中央公論」に発表)
作中の「私」は、かねてから考えていた、吉野周辺を舞台にした歴史小説の計画を「南朝、―花の吉野、―山奥の神秘境、」などを挙げながら、「何しろロケーションが素敵である。舞台には渓流あり、断崖あり、宮殿あり、茅屋あり、春の桜、秋の紅葉、それらを取り取りに生かして使える。」と、熱く、述べています。
まさにその通りで、文人ならずとも、この地を訪れる人は、花や紅葉を愛でながら、吉野の歴史や物語に、想いを馳せているのだと思います。心の趣くまま、吉野山を吟行した後、「櫻花壇」の大広間で、よき師、よき句友たちと共に句会ができるというのは、なんと幸せなことかと思います。
二日目の朝の句会では、ちょうど、清記用紙が一巡したころに、珈琲と、作りたての草餅が出ます。濃い緑の山のような、おいしい草餅を食べると、花より草餅とばかり、とたんに元気がでるのです。(洋子)
草餅の草より青き匂かな 春和