a la carte_日向ぼこ
大阪の難波駅から道頓堀に出て、法善寺横丁を抜けて、法善寺へ。法善寺横丁には、関東煮や鳥料理等のおいしそうな店が並んでいる。
法善寺の境内は狭いが、水掛不動で知られ、お参りの人が絶えない。不動に掛ける水は、ポンプで汲み上げる井戸水である。きいきいとポンプを鳴らして、バケツに水を汲む。苔むした不動に水を掛け、手を合わせる。大通りの喧騒が遠のき、昔の大阪の風情を感じる。
井戸の蓋の上で、猫が日向ぼこをして、うつらうつらしていた。水を汲む人を時折、ちらと見るが、まったく動じない。めっきり寒くなってきたので、至福の時間なのであろう。見ているこちらも、幸せな気分になる。
境内のすぐ横に、「夫婦善哉」の店がある。法善寺に参った後は、善哉を食べるのが楽しみだ。大阪では、粒餡で作った汁ものを善哉と呼ぶ。「夫婦善哉」は、二椀で一人前である。中に、白玉団子が一つずつ入っている。
織田作之助が、昭和十五年に発表した小説『夫婦善哉』にも、登場する。「ここの善哉はなんで、二杯ずつ持って来よるか知ってるか」と聞く柳吉に、「一人より女夫(めおと)の方がええいうことでっしゃろ」と、蝶子が答える場面が印象的だ。店先には、先ごろ放映されたドラマ「夫婦善哉」のポスターが貼ってあった。(洋子)
織田作の浪花の夢や日向ぼこ 洋子