今月の季語(十一月) 冬の衣
クイズです。麻、絹、綿、毛。このうち冬の季語はどれでしょう。
答えは綿。ただし、読み方はメンではなくワタです。木綿のワタのほかに、絹のワタである真綿(まわた)や化学繊維のワタ等があります。衣類や蒲団に使うシーンを指して季語になっています。
旅路来て綿紡ぐてふわざに佇つ 富安風生
あのふわふわしたものが紡がれて糸になり、布に織られて日々の営みに適用されていきます。
〈綿入(わたいれ)〉は表布と裏布の間に綿を入れた着物のことです。着物を和服の意にとれば、今では舞台で見られるくらいと言ってもよさそうですが、この技法はつまりはキルティングですから、そう言い換えればコートなどに現代の綿入と呼べるものがあることに思い至るでしょう。
綿入や妬心もなくて妻哀れ 村上鬼城
〈負真綿(おいまわた)〉は真綿を使った袖の無い防寒衣のこと。今ならさしずめダウンのベストでしょうか。
負ひ真綿して大厨司る 高野素十
〈蒲団・布団〉が冬の季語と聞くと、年中使っているのに何故と思う人もいるでしょう。大昔は昼間来ていた衣類を被って寝ていたことを想像してみてください。当然夏は単衣、春秋には袷、冬には綿入を被ることになります。やがて夜専用の綿入(〈夜着〉や〈掻巻〉)が作られるようになり、蒲団へと進化していきました。
佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり 櫂未知子
翔べよ翔べ老人ホームの干布団 飯島晴子
ちなみに〈綿入〉の対義語は〈綿抜(わたぬき)〉です。昔は綿入の季節が過ぎると綿を抜いて袷に仕立て直すということをしていました。「四月一日さん」(姓)を「わたぬきさん」というのはそうした所以です。
ワタはアオイ科の植物の実からとります。五月の連休の頃に種を蒔くと、七月頃芙蓉に似た黄や白の大きな花が咲きます。
雲よりも棉はしづかに咲きにけり 福島小蕾〈夏〉※棉(わた)と木偏の文字も使います。
花の後、卵形の〈綿の実〉をつけますが、晩秋には熟して裂け、白い絮毛をつけた種を露出します。このことを〈綿吹く・桃吹く〉、絮毛を採取することを〈綿取〉〈綿摘〉といいます。
明月の花かと見えて綿畑 芭蕉〈秋〉
蕾あり花あり桃を吹けるあり 三村純也〈秋〉
綿の実を摘みゐてうたふこともなし 加藤楸邨〈秋〉
その後、冒頭の例句の作業に移ります。
分業が当然となり、出来上がった衣類を購入するようになった現在ではほとんど意識しない事柄が、季語の中にはこうして生きているのです。
クイズに並べた麻(リネン)、絹(シルク)、毛(ウール)も、いろいろな形で季語となって歳時記に掲載されています。探してみてください。(正子)