浪速の味 江戸の味(五月)くず餅(江戸)
吉野での花の句会が毎春の楽しみです。今年訪れた四月六日は、花はこれから中千本へと駆け上っていくという時期でしたが十分気温は高く、花を巡りながら冷たいものがほしくなる気候でした。道端の店には「葛餅」がいかにも涼しげに皿にもられ、夏の季語であることが納得できる佇まい。この「葛餅」はその名の通り「葛」を材料に作るお菓子です。方や、私が生まれ育った関東で馴染んでいる「くず餅」は、材料も作り方も全く違います。
関東風の「くず餅」は小麦粉を発酵させて作ります。見た目も「葛餅」の透明感はなくまさに餅の白さ。発酵食品と言われるとなるほどと思う独特の食感と風味があります。良質な小麦の産地である「下総国葛飾郡」(現在の東京都東部を含む地域)には、地名から「葛餅」と呼ばれていた菓子がもともとあり、関西の「葛餅」と区別するために「くず餅」「久寿餅」などの字を当てた、などその呼び名には諸説あるようです。
「くず餅」は東京都江東区の亀戸天神はじめ、池上本門寺(大田区)、王子稲荷(北区)、川崎大師(神奈川県川崎市)などの門前町の名物になっており、参詣のお土産に親しまれています。
「葛餅」も「くず餅」も基本の食べ方は同じで、きな粉に黒蜜が定番のようです。どちらも少し冷えていた方が美味しいですが、冷蔵庫に長く入れすぎると硬くなり風味が落ちます。食べる直前に氷水か冷蔵庫で短時間冷やすのがおすすめです。
五月の亀戸天神は藤の花がみごと。境内は見物客で溢れます。風にゆれる藤房をながめ、花の甘い香りに誘われた虻の羽音を聞くうちに少しぼおっとしてきます。そろそろ門前のくず餅屋にでも落ち着きましょう。薄暗い店内から明るい町を遠い世界のように眺めながら。
くず餅や床几の竹のひんやりと 光枝