今月の花(四月)あぶらちゃん
桜の便りがあちこちから聞こえ始め、花々がその美しさを競うころ、桜ほどは目立たないが気になる花木があります。
私は都会に住んでいるので、特別な仕入れ先を持つ花屋さんが稽古の花材としてもってきてくれます。花の季節が短く毎年市場に入ってくるとは限らないので今年も会えればうれしい植物です。それは「あぶらちゃん」 (油瀝青)、クスノキ科の花木です。
花材が届くと教室ではひとしきり話題となります。生徒さんたちはその面白い名前に興味をもちます。三月末から四月の初めの葉が出る前に薄い黄色い小さな花が咲きます。雌雄異株だそうです。
山の中で2メートル、成長しても5メートルくらいの木です。枝を折ると、かすかに香りがします。同じクスノキ科の黒文字、青文字も良い香りがします。
丸い実は1.5センチ程で、乾燥すると中から丸い種が落ちます。昔、果実や樹皮から油をとり灯用にしていたとか。漢名の「瀝青」の瀝は滴るという意味で、この青は黒に近い色をさすのだそうです。瀝青の字の謎が解けます。
早春の山歩きでは、いろいろなクスノキ科の小さな愛らしい花を見つけることが多いと言われます。
クスノキで思い出しました。クスノキから作る樟脳の香りです。タンスを開けると香ってくるどこかすがすがしく、でもきりっとしていて優しい香り。この香りは虫を寄せ付けないからと母が着物の間に入れてました。じかに着物に触れないようにと、包まれた紙のまま。
今は多くは化学的に作られたものにとって代わっていますが、福岡県には今でもクスノキから純正樟脳を作っている江戸時代から5代続く樟脳師の方がおいでだそうです。6トンのクスノキからわずか25キロしか出来ない貴重な品です。
工場はさぞやさしい香りに包まれていることでしょう。このような日本の伝統が長く続いていくようにと心から願いました。
闇の中にあぶらちゃんからの油で灯りがともった部屋は、どんな香りが漂っていたのでしょうか。
クスノキ科のあぶらちゃんは、想像を膨らませてくれる春の贈り物です。(光加)
