伊勢参りと言えば、清流の五十鈴川を思い起される方も多いのではないでしょうか。内宮に参拝する前に、五十鈴川の御手洗(みたらし)場で、手を清めます。川に手を浸すと、心まで洗われたような清々しい気分になります。
五十鈴川は市中を流れ、やがて伊勢湾に入ってゆきます。その河口付近で大和蜆がとれると聞いていましたが、先日、実際に蜆を取っているところを見ることができました。
伊勢市二見町の御塩殿神社に御参りした折のことです。神事に用いられる御塩(みしお)を作るための御塩浜(塩田)が、五十鈴川の河口付近にあると知りました。行ってみると、小さな鳥居と、柵で四方を囲んだ御塩浜が見えました。
7月下旬から8月にかけての土用のころ水門を開き、御塩浜を五十鈴川から引いた汽水で満たします。天日で水を蒸発させ、鹹水(かんすい)を作ります。その鹹水を御塩殿神社内の施設で粗塩にし、年2回、3月と10月に焼き固め、堅塩にするそうです。
御塩浜を眺めながら御塩作りに思いを馳せていたのですが、道をはさんだ五十鈴川に目を移すと、小舟のそばで膝まで浸かりながら、何か取っている人が見えました。地元の方にお聞きすると、蜆を取っているとのこと。蛤、浅蜊とともに蜆もこの地の名産で春のごちそうです。
河口付近の五十鈴川は、まさに人の暮し、日々の食卓に密接に関わっています。上流の御手洗場の清らかな雰囲気とはまた違う親しさを感じました。(洋子)
蜆取る人も光や五十鈴川 洋子