今月の花(10月)_菊(キク科)

ウイーンの日系のホテルで、ロビーに丸々とした大輪の菊がたくさん飾られていたのに驚いた事がある。黄色、白、黄色の花びらの中に濃い赤を見せるものなど。独特の金の装飾のほどこされた白い室内やシャンデリアなどの調度に、ガラス花器にいけられた菊は意外にしっくりと調和していた。
今では世界各地で菊をみかける。ルース・ベネデイクトの『菊と刀』をあげるまでもなく、菊は日本を代表する植物の一つとして桜とともに知られている。
日本の五節句のうち、しんがりは旧暦の9月9日の重陽の節句。菊の節句とも呼ばれるこの日には菊の花に前夜からかぶせておいて露を含んだ綿で身をぬぐい、薬効を信じて菊を浮かべた酒を飲み、不老長寿を祈った。また現代でも秋になると日本のあちこちで、頭ほどある一本作りの菊や丹精こめた懸崖の見事な自慢の菊が競われ、歴史上の人物を模した菊人形などが人々をひきつける。
今では需要の多いときは海外から多量に輸入される菊。おのずと菊に対する見方も変わった。中菊といわれる、直径6センチほどの黄色や白の菊は昔から仏事に用いられるが、近頃ではピンポン菊あるいはポンポン菊と呼ばれる、ピンポン球のような菊などは花嫁のブーケにも使われる。
昔はなかったであろう緑の菊などを手に取り、茎の線を美しく見せるため、葉や芽葉といわれる小さな葉も整理すれば、菊本来の香りがいっそうたちのぼる。長くもたせるため、金気をきらうからと菊を手で折る人もいるが、もともと葉が枯れてしまっても花だけはしっかり美しく咲いているのが菊である。見習うべきは(菊)の根性。
菊はまた、皇室の紋章をあげるまでもなく、花としてシンボル化、図案化するのに適している。菊の中心にコンパスの針を定め360度動かすと ほとんど同じ距離に花びらの先が来る。重なった花びらは終りがないかのように広がっていく。形がきちんとしていて、花の基本という風情。菊といわれるとなぜか一瞬かしこまってしまうのはこのせいか。
京都の嵯峨地方が発祥という細く長い花びらの嵯峨菊、パイプを斜めに切ったような中と外の色が違う風車といわれる種類、外国でスパイダーマム(蜘蛛の糸)と呼ばれる花びらの細く長い大輪の糸菊。ヨーロッパで改良されて日本にもどってきたスプレー菊。菊の種類もとどまるところを知らず増えつづけ、これが菊かと思う花も多い。
実は一番魅力を感じる菊は、畑のすみに植えられている葉は土にまみれ、のたうち回ったような面白い線をもった小菊や野菊。秋の豊潤な陽をうけて命が輝いている。(光加)
