今月の花(3月)青麦
花やさんから届けられるお稽古の花材に青い穂をつけた麦がでてくると、春も一段と進んでいることを知らされます。子供の頃、麦の穂を形成している伸びた芒(のぎ)の先がいかにも心地よさそうで、思わず頬を寄せて柔らかい緑色の感触を確かめようとしたら、先端は思ったより痛いことも知りました。茎は中空なので、濃緑の葉を節からとるときは気を付けないと穂の元や茎を折ってしまいます。
日本には4,5世紀に渡ってきたといわれる麦。麦踏みという作業は動力にとって代わりましたが、麦秋での収穫に至るまで今でも大事に育てられています。心地よい風が吹く青々した麦畑でならす麦笛、藁ぶき屋根、麦わら帽子、麦ごはん、味噌は裸麦から、夏の乾いた喉に麦茶、一生懸命かきまぜた麦こがし。パンやお菓子、麺類も小麦から、朝はライ麦のパン、あるいは燕麦が原料の一つのオートミールなど私たちの生活と麦は切っても切れません。
学校帰りの炎天下、駅から我が家へ向かう途中にある牛乳やさんで、大きな冷蔵庫から出された牛乳瓶の丸い紙のふたを、店のおじさんが先のとがったもので、チョンと開けてくれたものです。ガラス瓶ごと冷やされた牛乳が、黄色くつやつやしたストローを伝ってあがってくる。外の暑さに対して急にきゅんと来る冷たさが和らげられていたのは、ストローが自然のものだからでしょう。麦のはじめの記憶はこのストローで、英語で麦わらを意味することも知りました。
大麦には六条麦と二条麦があり、穂についている実の列数が異なります。麦茶の宣伝でも知られる六条大麦は穂を上から見ると実の列が6列、二条大麦は2列です。
ある程度の技術と表現に達し証書を申請する時、いけばなでは先生から名前、「雅号」をいただきます。クラスに長く通ってきている男性は私の光加の「光」をとって光麦(こうばく)という雅号になりました。本人が麦酒、つまりビールが大好きだからです。
二条の麦はウイスキーやビール、焼酎などの原料のひとつとなり、大人になっても麦にはいろいろお世話になり続けるのです。(光加)