今月の季語(十二月) 暖房
夏に〈夏座敷〉という季語があるのと同じように、〈冬座敷〉という冬の季語があります。一言で言うと、冬用のしつらえを施した座敷のことです。〈襖〉〈障子〉〈屏風〉などの障壁具を使って風を防ぎ、暖房設備で室内の気温を調節します。
「座敷」ですから、家族の居る部屋ではなく客間でしょう。この「火」は客をもてなすための火です。〈火鉢〉の〈炭火〉でしょうか。部屋中あまねく暖められるほどの火力ではありませんが、あかあかといかにも暖かそうです。色や匂いで感じ取る暖かさもあったに違いありません。
暖房をつけて仕事をもう少し 片山由美子
〈暖房〉そのものも冬の季語です。文字通り部屋を暖めることですから、すべての種類の暖房に使用することができます。が、ストーブであれば「ストーブをつける」と言うでしょうし、火鉢であれば「炭をつぐ」、暖炉には「火を入れる、かきたてる」と言いそうですから、この句の作者は冷えて来た夜更けにエアコンのスイッチを入れたのかもしれません。
金沢のしぐれをおもふ火鉢かな 室生犀星
松笠の真赤にもゆる囲炉裏かな 村上鬼城
今では〈火鉢〉も〈囲炉裏〉も、日常品というより展示品であり、観光用、イベント用の他には知らない人のほうが多いでしょう。ですが、傍らに寄るとそのままずっと蹲っていたくなります。その気分は、ふるさとに思いを馳せている犀星の心情に通じるようにも思います。
炬燵の間母中心に父もあり 星野立子
父も来て二度の紅茶や暖炉燃ゆ 水原秋櫻子
ふたりの「父」の様子を想像すると、和室の〈炬燵〉、洋室の〈暖炉〉という以上の違いがありそうです。
ストーブの中の炎が飛んでをり 上野 泰
ストーブを蹴飛ばさぬやう愛し合ふ 櫂 未知子
〈ストーブ〉はまだまだ健在でしょう。炎の飛ぶタイプは少数派になりつつありますが、俳句に詠まれるストーブは火の見えるものが多い気がします。
風を屏(ふせ)ぐ〈屏風〉〈障子〉〈襖〉はすべて冬の季語です。
今消ゆる夕日をどつと屏風かな 山口青邨
一枚の障子明りに伎芸天 稲畑汀子
星空を戻れば白き襖かな 鴇田智哉
屏風や襖は装飾性が濃いですが、障子はむしろ消耗品で、毎年貼り替えます。その仕事を指して〈障子貼る〉〈障子洗ふ〉と言い、こちらは秋の季語です。
今日では、年越しの準備として障子を貼り替えもしますから、秋の季語と聞いて意外に思う方もおられるでしょう。が、もともとは冬支度の一つとして行う作業でした。冬を迎える支度をする季節、つまり晩秋の季語なのです。
湖へ倒して障子洗ひをり 大橋桜坡子〈秋〉
使ふ部屋使はざる部屋障子貼る 大橋敦子 〈秋〉
桜坡子と敦子は父と娘の関係です。時を隔てて、同じ家の障子を詠んだものかもしれません。冬座敷に関わる季語は、「家」を思わせます。家の磁力が弱くなってきている昨今、存続の危うい季語なのかもしれません。(正子)