今月の花(七月) ひまわり
向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ 前田夕暮
歌人の心の中で、すべてのひまわりの頂点に立つ象徴的なひまわり。花瓶にいれられ様々な表情を見せるゴッホのひまわり。映画「ひまわり」でソフィア ローレンの背後で同じ方向をむいて揺れていたたくさんのひまわり。
一番印象的なひまわりはと問われれば、それは詩人大岡信さんの金冠賞受賞の時にマケドニアの詩祭でいけたひまわりの花です。マケドニアはかのアレクサンダー大王を輩出した地域です。この国は1991年、時のユーゴスラビアから血を流さず独立したのですが、歴史をみれば国境も支配者も変わる不安定な国と言わざるを得ません。それが独立後まもない1996年、詩人に与えられる賞の授与式が大統領も出席し国をあげて華々しく行われることに驚きました。
私は旧知の大岡夫妻が到着する前、授賞式が行われるストル―ガの古い教会の中に花をいけることになっていました。町で1~2軒しかない花屋は品質管理は十分とはいえず、花の種類も限られていましたが前もって注文していた赤の小さなアンスリウムを10本手に入れました。次に森に連れて行ってもらい作品の骨格となる木や枝を切らせてもらったのですが、華やかな席での作品としてはそれだけでは色が足りません。
その時、委員会の一人が背の高い十八歳のお嬢さんを私の助手と紹介してくれました。オーストラリアに家族で数年住んだことがあるのだそうで、長い金髪にハート型の顔、物憂げな表情はどこかボッティチェリの春の女神に似ていると思いました。周りに英語の通じる人がいなかったので、私はほっとしました。鮮やかな色の花を集めたいと言うと、この季節はどこでも花は咲いているから歩いてみましょう、と。春の女神にいざなわれ歩き出すと、一軒の家の庭に私の背の高さのひまわりが何本もたくさんの花をつけてゆらりとゆれていたのです。直径15cmくらいの黄色いひまわりの花の下には太い茎から大小の蕾が出ていて、数えると蕾だけでも20輪はあったでしょうか。
知っている家ではないけれどと言いながら彼女は簡単な木の柵を入っていきました。出てきた家主はすんなりと切らせてくれてひまわりが数本手に入りました。いかにも手入れをされていないまま澄みきった空気の中でのびのび育ったひまわり。その太い茎は薄緑、葉は柔らかな光を受け、次々と開きそうな蕾をもった花たちはゴッホの描いたひまわりの逞しさに重なるものがありました。大地から生えている新鮮なひまわりたちはそれぞれ個性と生命力にあふれ、教会の作品の中にいけると薄暗い空間が赤のアンスリウムを伴って光が灯されたようでした。
今年になりマケドニアは国名が北マケドニアになりました。ひまわりは、その地にしっかりと根をおろした人たちに脈々と流れている知恵と、決して失わない個を表しているように見えました。金冠賞は1966年以来続いており、今年もルーマニアの詩人の受賞が決定したそうです。
私の心の中の[ひまわり]は以後このマケドニアのひまわりとなりました。(光加)