浪速の味 江戸の味(八月)水茄子(浪速)
暑い日が続くと食が進まないことがあります。そんな時、茄子の漬物で茶漬けを食べると食欲が出ます。漬物の中でも、茄子は茄子紺と言われる涼しい色と風味が魅力です。焼いても、蒸しても、揚げても茄子は美味しい。
茄子は、インド東部が原産といわれています。日本に伝わったのはかなり早く710年頃の長屋王家の木簡に「韓奈須比二斗」と、東大寺の『正倉院文書』(750年)に「茄子献上」と記されています。渡来人とともに大陸から伝わり、天皇等への献上のため栽培されたようです。
室町初期と推定される初歩教科書の『庭訓往来』の点心、菓子の項に「澤茄子」、室町南北朝時代の『異性庭訓往来』の菓子の項に「水茄子」と記され、古くから水茄子が栽培されていたことがわかります。果物の一種として生で食することができる品種ととらえられていたようです。
各地に名産の茄子があり、関西では京都の丸い賀茂茄子が有名です。浪速には電球形の水茄子があります。泉州(大阪南部の岸和田、貝塚、泉佐野、泉南市)の主に河川に近い肥沃な土壌で栽培されてきた水茄子は、その名前通り、水分たっぷりで柔らかな果肉はフルーツのような香りがします。「炎天下の農作業で喉が渇いた時に食べて渇きを癒した」と言われるほどです。一夜漬けにすると絶品です。
他の土地で同じ種子を使っても、栽培条件が変わると茄子の形質が変わってしまうことや果皮がとても薄く長距離輸送に耐えられないこともあり、地域独特の伝統野菜として受け継がれてきました。しかし、近年の品種改良や輸送手段の向上などで他地域へも流通するようになりました。
瑞々しい水茄子を食べて残暑を乗り切り、元気に秋を迎えましょう。
泉州の水のうまさや水茄子 洋子