今月の花(一月)寒牡丹
寒牡丹はもともと一年に二回咲く品種を、秋から冬に美しく咲くように作りあげたものです。晩秋、外では大きな花がだんだんと少なくなる中、公園などで藁囲いされた寒牡丹が咲いていると、そこだけ陽だまりが出来ているようです。初夏に咲く牡丹に比べると、丈は短めで葉は極めて少なく、花も少し小ぶりです。原産地が中国の牡丹はtree peony と英語で呼ばれるように木ですが、これに対して芍薬は草の部類に属します。秋、落葉樹の牡丹は葉をおとしていきますが、寒牡丹の茎はいかにも固そうで、その中で花を咲かす努力がされている秘めた力を感じさせます。
別名花王という名がいかにもふさわしい牡丹、その薄ピンクの一輪を生けたのはある年の五月、テレビの収録の時でした。この咲き加減なら大丈夫だろうとまだ芯も隠れているあでやかな一輪をえらびました。収録が終わり、はい、お疲れさまでした!とデイレクターから声がかかった途端、薄い花弁がはらりと一枚、また一枚と散りだしたのです。スタジオのライトの熱もあり、私が知らない間に急速に咲いた牡丹はタイミングを見ていたのでしょうか。
牡丹散つてうちかさなりぬ二三片 与謝蕪村
そんな思い出がある牡丹ですが、牡丹の生産で有名な島根県の大根島の冬牡丹をいける御縁をいただきました。十一月末の東京での展覧会の花材として現地から送ってくださるというのです。花を持たせる方法は?と聞くと初夏の牡丹のように切り口を炭化するまで焼く必要はなく、水の中で切りなおしただけで良いとのことでした。展覧会の二日間をめがけて調整して一番きれいな状態で咲かせるよう栽培してくださった切り花は、花弁の元が濃紅色の黄色いもの、そして白いものが合計十本届きました。
完成した作品に近づくと初夏の牡丹と同じく香りが漂っていました。黄色い花は大きく咲いたのですが すぐに花弁はくしゃりとしてしまいました。白の花はもうこれ以上は開けないと言わんばかりに黄色い芯を見せて反り返り、青々とした葉もしっかりとつけ、二日目が終わるまでその状態でした。これが人の手をかりて温室などで温度調整を重ねてしあがった冬牡丹です。
冬のこの時期、季節の到来を人工的に調節して花に錯覚をさせた冬牡丹と外でたくましく育った寒牡丹の花の違いを見くらべたくなり、花屋さんではなかなか入手できない寒牡丹を新しい年には生けてみたいという思いに駆られたのです。(光加)