浪速の味 江戸の味 一月 【七草粥(江戸)】
一月七日は五節句のひとつ「七種(ななくさ)」です。この日の朝、〈芹、薺、御形、繫縷(はこべら)、仏の座、鈴菜、清白(すずしろ)〉を入れた七草粥(七種粥・七日粥)をいただき、無病息災を祈ります。
六日の夜「七草なずな唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に」と唄いながら七草を俎の上で叩き刻む七草粥の風習は全国にありますが、囃し詞や粥の中身は様々です。私が育った葛飾区では、かつては名産の小松菜を入れていたそうです。
旧暦の「七種」は、新暦よりひと月ほど後、ちょうど立春のころで、野山に若菜が萌える時分でした。新暦では寒中ですから栽培した七草を使うことになります。
東京都の東端、千葉県に接する江戸川区は、江戸時代には市中への野菜供給地でした。小松菜発祥の地として知られ、現在でも都心に近い野菜の生産地です。その一角、花卉栽培が盛んな「鹿骨(ししぼね)」地域では毎年十二月になると「七草籠」の生産に追われます。
ちなみに「鹿骨」の地名の由来は、奈良時代、春日大社の創建に際し常陸の鹿島神宮から多くの神鹿を春日大社へ引き連れて行く際、道半ばで死んだ鹿をこの地に葬ったことからとされています。
ビニールハウスで育てた七草を鉢に並べ籠に収めた七草籠は、正月の飾りとして全国に出荷されます。青々とした七草が初々しい籠は、初春を寿ぐ空気が自ずと生まれるようです。
いつの時代も人々は、疫病退散の願いを込めて七草を叩き、一椀の粥に新しき年の幸いを願ったのでしょう。
暁や七草はやす手の白く 光枝