今月の花(十二月)冬紅葉
「もう紅葉も終わりでしょう」という門下の話に、せめて名残の冬紅葉が見られるだけでもと期待した帯広でした。
地元はもちろん全国で有名なお菓子の店の本店に併設されたギャラリーで、私の門下のSさんが彼女の六人の生徒とともにいけばな展を開催することになりました。
Sさんは東京のいけばなの本部や私の教室にも時々勉強に上京。しかし、この二年近くはそれもかなわなかったのですが、事態が少し好転したのを見極め、展覧会の開催を決断しました。「こちらの花屋さんにある花材もこの季節になってくると大したものもないし、先生どうしましょう!」との電話に、一年ぶりに飛行機に乗り帯広に向かいました。
機体の降下がはじまると、わずかに黄色の葉をつけた樹々が視野に入り、せめて冬紅葉には出会えるかもしれないと少し希望がわいてきました。
今回のように目的がある時だけでなく休暇でもたびたびここ帯広に来るのは、実は私の好きな温泉があるからです。
モール温泉と呼ばれる独特の温泉で、同じ性質の温泉は今では他にも発見されましたが、初めは主に帯広を中心とする十勝地方とドイツの「バーデン バーデン」の周りが知られるだけでした。ちなみにバーデンとはドイツ語で温泉のこと。
北海道のこの地方の温泉は、アイヌの方たちが薬の沼と呼んでいたそうです。番茶色ではあるもののお湯は澄み、匂いがなく、時々白い一ミリ位のものが浮かんでいます。それは植物の化石が溶け出したものという説明が脱衣所にありました。
十勝地方には古くから葦などが生えていたようですが、それらの植物が長年の間に泥灰(moor=モール)の中で腐植物となり、その有機物質の層を通ってくるお湯はアルカリ性に近くじんわりと体が温まります。
見上げれば空っぽの梢を風が吹き抜けていきます。その代わり、足元には赤や黄色、茶色の色鮮やかな葉たちが厚みのある織物を拡げてくれます。手帳の中に一枚、しおりにと拾いはじめましたが、どの一枚をとっても個性的な色の配置で決めかねました。
この葉たちも土に帰っていき、何万年、いやもっとだろうか、やがてあの豊かなお湯を生む母体の層の一部となるのでしょうか。冷たい風の道を歩いていけば、永遠の端にちょっと触れてみたような、そんな思いに駆られる初冬の北国でした。(光加)