浪速の味 江戸の味(八月)谷中生姜【江戸】
東南アジア原産といわれる生姜は、その栽培、収穫方法から根生姜、葉生姜、矢生姜に分類されます。通年出回るのは秋に収穫する根生姜で、辛味が強く薬味に適しており、根生姜を初夏に収穫する新生姜は、筋が少なく生食に適しています。
葉生姜は、根茎が小指程度の大きさの時に葉を付けて収穫されます。味噌をつけて生食したり、料理の付け合わせ、甘酢漬けなどにして楽しみます。
葉生姜の一種「谷中生姜」は、江戸時代から谷中本村(現在の東京都荒川区西日暮里付近)で栽培されていました。かの地で栽培が盛んになったのは、水に恵まれ、排水も良く、西日に当たらないという、葉生姜の栽培に適した土地だったからと言われています。関東ローム層の黒土も生姜栽培に適していたようです。
谷中本村で栽培された葉生姜は筋がなく香りも良いので、お盆の贈答品としても使われました。ちなみに江戸っ子は「谷中生姜」を「盆生姜」と呼び、夏の食欲増進によく食べたそうです。
東京都港区の芝大神宮の秋祭りには、境内で「谷中生姜」が売られ、そこの「生姜市」は秋の季語になっています。江戸時代には、二町四方に盛られた生姜の山が三日のうちに売り尽くされたほど賑わったそうです。
谷中での生姜栽培は、都市化が進んだ昭和には各地へ移り、現在都内で売られている「谷中生姜」は千葉県産が多いようです。
居酒屋などで品書きに「やなか」とあれば、「谷中生姜」に味噌などが添えられた一品。青々とした葉を従え、うっすら紅をさした「やなか」をつまみに、暑気払いといきましょうか。
谷中生姜青々と葉のはみ出せる 光枝