浪速の味 江戸の味 2月【丁稚羊羹】
「寒天製す」「寒天造る」「寒天晒す」は冬の季語である。天草を水で晒して、煮てから型に流し入れ凝固させる。それを冬の間、屋外に出して、夜間は凍らせ、昼間は解かすを十日ほど繰り返すと寒天ができる。
大阪北部の山地では江戸時代後期から寒天作りが始まり、寒さが厳しい農閑期にさかんに作られてきた。その特産の寒天とこしあんを使って作られたのが「丁稚羊羹」である。水に浸した糸寒天を火にかけ、完全に煮溶かす。そこにこしあんと砂糖を入れてよく混ぜ、沸騰したら火から下ろす。かき混ぜながら冷まし、型に流し入れて固める。固まったら型から取り出して、長方形に切る。
高価だった砂糖をたっぷり使った練羊羹と比べ、砂糖をそれほど使わないので、保存がきく冬に作られ食べられてきた。安価なので、丁稚が里帰りの時に土産にしていたとか、練羊羹に比べ煮詰めが足りない丁稚のようだとかいろいろな説がある。
同じように、寒天を使用した「水羊羹」は夏の季語で、冷蔵庫の普及した現在、夏の贈答品として人気だが、丁稚という名から商家に年季奉公をする年少者のイメージがあり、厳しい冬がふさわしいと思える。
丁稚羊羹は関西地方では馴染みの和菓子だ。ただ、大阪南部の河内地方では、こしあんに小麦粉を加えてこねた後、竹の皮に平らな長方形にして載せ蒸した「蒸し羊羹」を丁稚羊羹と呼ぶ。寒天作りをする寒冷地と南部の地域の特性がよく出ている。どちらも、厳しい冬を耐え、春を待つ丁稚どんが食べてはったんやなと思うとほっこりする。
丁稚羊羹父母が恋しき雪夜かな 洋子