今月の花〈二月〉 連翹
春のいけばな教室の何時もの光景です。私は、「やってごらんなさい」とアドバイス。
やがてぱちんという小さな音と、「あ!」という声。意地悪をしているのではありません。こうやって、失敗しながら手に覚えさせていくのです。
連翹は枝の中心の部分が空洞になっていて、曲げようとしても折れやすく、枝ぶりの美しさをそのまま使うのが一番なのです。
鮮やかな黄色のこの花木(かぼく)は、春の代表的な花材の一つ。他にも山茱萸や万作などは葉が出る前の枝に黄色い花が付き、1月の中頃から花市場に登場します。
季節が進むと、その黄色の鮮やかさが春の青い空に映えます。
ヘルシンキ、オーストリア、韓国、ドバイ。私は連翹の花をいけた土地とそれぞれの「レンギョウ」の姿を思い出します。いずれの土地でもそんなに高い木にはなりません。
すっと伸びた枝を持つもの、蔓のようになったものなど様々で、しだれた黄色い花の枝が地に着くとそこから根を下ろすという生命力の強いモクセイ科の中国原産の植物です。
いけばなに必要な線の要素を持つものとして、ありがたい存在です。夏季にはげんなりする暑さの中でも緑の葉が出て、この時期の数少ない緑の枝ものとしてお稽古に使われます。
シナ連翹の変種といわれる朝鮮連翹、また、シナ連翹とレンギョウを掛け合わせたものがドイツで栽培されており、黄色い大きな花を咲かせると聞きました。
私がオーストリアで見たものはこの種類だったのでしょうか。
ある日お稽古の途中で、一人の生徒が携帯を開いて「これと同じでしょう?」と声をかけてきました。ウクライナの出身の方で、以前可愛いお嬢さんをつれて来たことがありました。
写真は鮮やかな黄色の花の壁。「きれいねえ!!日本のより、花が大きいわねえ」「端に写っているのはお嬢さん?」。いけていた人たちも手を止めて携帯の画面をのぞき込みました。
彼女の家は首都キーウから車で4時間ほど。「家の近くの道に咲いていたけれど、今はもう、危なくて帰れない」とすこし声を落としました。
いつかこの季節、あふれるばかりに黄色に咲き誇っている花の道を一家で散歩することが早くできるように、と心から願うのでした。
(光加)