加賀の一盞(三月) 利休忌茶会
ひと口の和菓子に雅を感じる。金沢に美味しいものは多いが、その一つが和菓子、古くより茶の湯文化と相まって脈々と続いている。茶道は足のしびれを我慢しなければならないが、お菓子と抹茶が楽しめるところ。このコラムを始めるにあたり若かりし頃体験した利休忌茶会を紹介する。
千利休は茶の湯を広く世に示した人物、毎年三月の忌日に茶会を催す。当時習っていた先生は裏千家の業躰(家元で業を体得した師範)で茶会は百数十人の集まりになる。参加の皆さんは着物なので私もお召しに草木染の袴を新調し参加した。
金沢市内の料亭を貸切り、先ずお薄を頂きその後茶懐石へと進む。お菓子はお薄の席で菓子器から一つ頂く。これを主菓子といって練り切りの上生菓子、春の題材で特に利休が好んだ菜の花がこの茶会にはよく選ばれる。口に含めるととろりと解け風雅な味わい。金沢の老舗菓子屋に聞くと季節々々で数百種類の主菓子を作りそれぞれ銘があるとのこと。写真は「春告草」の練り切り。
よどみなくお茶銘問ふや春の雪 淳
茶会は先ず女性から三十名ほどずつ席に入る。男性陣(約二十名)はお点前、お運び、裏方茶筅振りなどの役を務め、最後の席でお薄を頂き茶懐石へと移る。
先ず塗の平盃にかんなべからお酒を注いで頂き乾杯をして料理を頂く。盃からぐい吞みに変ったころから定番の余興が始まる。謡やそれに合わせての仕舞、歌やおもしろ話など。最後は能「高砂」の「四海波静かにて」と「千秋楽は民を撫で」を皆で謡上げ締めとなる。
茶の湯はほとんどの美術工芸を集めた総合芸術、金沢にはそのすべてが用意されている。和菓子を始めとする芸術に触れるのも人生の楽しみのひとつだろう。(淳)