十月 秋果(2)
何年か前に「秋果」のテーマで初秋のころの果物をとりあげ、その結びに「今から柑橘類が次々に旬を迎える」と書いていました。今月はその柑橘類をとりあげます。
とはいうものの、柑橘類は種類によって出回る時期が多岐にわたっています。殊に「みかん」と呼ばれるものは、新種も加わってざっと10月から5月ころまで、いつも何かが旬を迎えています。柑橘好きにはうれしい、贅沢な時代になったものです。
ひとまずここでは秋(から少し冬に入ったところまで)に限って、季語と例句を見ていきましょう。
〈蜜柑〉(温州みかんを指すことが多い)が熟すのは冬に入ってからですから冬の季語です。それに先立ち、秋の季語として〈早生蜜柑〉〈青蜜柑〉があります。
船はまだ木組みのままや青蜜柑 友岡子郷
青みかん置いてそのまま夜の脚立 岩津厚子
蜜柑出荷用の船でしょうか。木に生っている蜜柑はなお青く、船も仕上がっていないということでしょう。
脚立は収穫のために立てたものでしょう。そのまま放置され、夜になっているのです。青みかんは単数とも複数とも解せますが、私はとりこぼした1個がぽつりと置かれている景を思いました。
ちなみに〈蜜柑〉のみで実を指します。花をいうときには〈蜜柑の花〉(夏)とします。
花蜜柑島のすみずみまで匂ふ 山下美典(夏)
近景に蜜柑遠景に蜜柑山 宇多喜代子(冬)
緑の葉影に真緑の実をつけていた〈柚子〉は、黄金色に熟れ始めます。ご存知のように、果肉をそのまま食することはありませんが、果汁を調整して飲料にしたり、調味料として広い用途があります。冬の鍋物には欠かせない存在でもあります。
柚子すべてとりたるあとの月夜かな 大井雅人
柚子の香のはつと驚くごと匂ふ 後藤立夫
柚味噌やひとの家族にうちまじり 岡本 眸(秋・生活)
ふるさとの無くて柚餅子の懐かしき 文挟夫佐恵(同)
黄金の実をとってしまえば、柚子は単なる緑の木となります。夜ともなれば黒々とした一塊の影となるでしょう。そこへ昇ってきたのが月です。なにがなし凜々と生っていた実の再来のようにも思われます。
柚子は色佳し香り佳し。表皮も削いだりおろしたりして料理に使われます。〈柚味噌(ゆみそ/ゆずみそ〉や〈柚釜(ゆがま/ゆずがま)〉、〈柚餅子(ゆべし))は、かつてはそれぞれの家庭の味でもありました。
秋刀魚を焼いたときに添える〈酢橘・酸橘(すだち)〉はピンポン玉ほどの大きさです。松茸料理にも欠かせません。徳島の特産品です。すだちより一回り大きい〈かぼす〉はまろやかな酸味が特徴。大分産が有名です。
ふたり住むある日すだちをしたたらす 黒田杏子
年上の妻のごとくにかぼすかな 鷹羽狩行
その名が体を表す〈金柑〉も晩秋に熟します。果皮ごと生食できますが、甘露煮や果実酒などにもします。次の句の季節は冬(季語=〈霜夜〉)ですが、金柑といえば思い出す私の愛称句です。
金柑を星のごと煮る霜夜かな 黒田杏子 (正子)
