今月の花 (十月) 栗
「あ、痛ッ!」親指と人差し指でつまみ上げる青栗。
柔らかい緑色をしているのでつい手をだしてしまうのですが、中の若い栗を守るために、自然はこんな時期からすでにイガの針を鋭く作ったのでしょうか。6,7月には黄色く垂れ下がる雄花、基には雌花がつきます。夏の終わりには気が付けば茂った葉の間から青栗が顔をのぞかせています。
丸いイガの形が愛らしく、この時期栗をいけるのを楽しみにしています。枝を切るとやがて乾いて巻いてしまう葉を、思いきり切り落とし栗を目立つようにします。
イガはぐんぐんと大きく茶色となり、中からつやつやの実が顔をだします。実は3個が多いのはなぜなのでしょうか。湯がいて厚い皮をむきますが子供のころは固い皮と渋皮をとるのももどかしく、包丁をいれてもらって2つに割りスプーンで中身をかきだし、口の周りに残るのを気にしながらほおばったものです。
日本の栗には芝栗をはじめとしていくつかの種類があります。丹波栗は甘みの強い栽培種です。ヨーロッパでスタンドで売られる焼栗になるものや中国の天津栗はまた違う種類です。
焼栗の他、マロングラッセ、モンブラン、栗饅頭、栗蒸羊羹、栗おこわ、甘露煮、そして栗きんとんと栗にはさまざまな楽しみかたがあります。
栗蒸羊羹の季節を迎えると覗く小さな和菓子屋さん。大福や豆がびっしり入った豆餅などを入れた塗りの箱の並ぶガラスケース。その奥の暖簾のむこうでは、蒸し上がったばかりの栗蒸羊羹を、エプロンをつけ手拭いをかぶった女性たちが冷めた順に一本ずつハトロン紙のようなものにくるんでいました。ある程度の大きさのかけらも入った栗いっぱいのここの栗蒸羊羹を、今年も予約を入れなくてはと思うのもこの頃です。
同じ時期、家では早めの冬支度が始まっていました。
「ついでにそろそろ火鉢をだしておこう」
火鉢は栗の木をくりぬいた木目の美しい手あぶりでした。中は赤と呼ばれる銅板がまわり、灰をいれてあります。久しぶりに部屋に立ち登る炭の香り。鉄瓶に水をいれてのせ、やがてふたがチンチンという音を立てはじめ、程よい湿気が部屋に漂いはじめます。「お正月のくりきんとんは今年はどうしようか」と話だす頃、秋はすっかり次の季節に比重を移しているのです。(光加)