今月の季語(七月) 夏の雨
子どものころは外遊びが佳境に入るころ〈夕立〉に追い立てられたものでしたが、昨今は夕方に限らず、また季節を問わず、スコールのような雨に慌てるようになりました。が、雨あがりの爽快感が強いのはやはり夏。今月は〈夏の雨〉について見ていきましょう。
〈夏の雨〉は夏に降る雨の総称ですから、三夏を通し、しとしとにも土砂降りにも使えます。
千年杉の千年前の夏の雨 鈴木鷹夫
夏の雨に色彩が加わるとたとえば〈緑雨〉〈青時雨〉になります。〈新緑〉〈万緑〉に注ぐ雨と受けとめればよいでしょう。
さつと来て緑雨の傘をたたみけり 髙田正子
拙句で恐縮ですが、傘をたたんだ人のたたずまいが伝われば幸いです。
同じ夏でも、始まりと終わりではまるで違うように、雨の降り方も異なり、従って雨の名前もさまざまにあります。過ぎたところでは〈卯の花腐し〉、これは卯の花が咲くころの長雨のこと。明けるのが待たれる〈梅雨〉〈五月雨〉は、ひと月半に及ぶだけに関連季語も多いです。
梅雨の夜の金の折鶴父に呉れよ 中村草田男
五月雨を集めて早し最上川 芭蕉
あまり降らないと〈空梅雨〉と言って〈旱〉を心配します。米の消費が減ったとはいえ、米無しではいられない我らにとって〈旱田〉〈日焼田〉の様は無残であり、不安なものです。
百姓に泣けとばかりに梅雨旱 石塚友二
がしかし、降りすぎると〈出水〉による被害に憂うことになります。〈水見舞〉は水害を気遣って見舞うこと。切実ですが、やさしい音を持つ季語です。
夢の淵どよもしゐたる梅雨出水 藤本安騎生
持ち重る茄子やトマトや水見舞 星野立子
裏が山であった私の実家は、梅雨どきには裏庭に小さな〈梅雨穴/梅雨入穴(ついりあな)〉ができました。惨事につながることもある現象ですが、泉でもないのにぽこぽこ水が湧き出すさまが面白く、見入った昔を思い出します。
気疎しや我が胃の腑にも梅雨入穴 相生垣瓜人
また、湿度と気温の条件が整うと〈苔の花〉〈梅雨茸〉〈黴〉を目にすることにもなります。
伝ひきて苔の花より滴れる 浅生田圭史
白塗りののつぺらばうの梅雨茸 藤田湘子
かほに塗るものにも黴の来りけり 森川暁水
ときに雷を伴って激しく地を打つ〈夕立〉は、夏のスケールの大きさを表す雨でもあるでしょう。降り方を色で表す〈白雨〉という呼び方もあります。夕立のあとには〈虹〉が立つことも。虹がきっぱりと鮮やかで迫力に満ちるのも夏でしょう。
祖母山も傾山も夕立かな 山口青邨
法隆寺白雨やみたる雫かな 飴山 實
夜の雲のみづみづしさや雷のあと 原 石鼎
虹二重神も恋愛したまへり 津田清子
梅雨が明けるといよいよ暑さの本番です。 (正子)