今月の季語〈一月〉 寒(2)
〈寒(かん)〉とは、〈寒の入り〉から〈節分〉(=立春の前日)までのおよそひと月の期間を指します。〈寒中〉〈寒の内〉とも呼び、一年のうちでもっとも寒い時期にあたります。
乾鮭(からざけ)も空也の痩せも寒の中 芭蕉
きびきびと万物寒に入りにけり 富安風生
約束の寒の土筆を煮て下さい 川端茅舎
二〇二〇年の〈寒の入り〉は一月六日。カレンダーに〈小寒〉とある日です。寒の極みとでも言うべき〈大寒〉は一月二十日。そして二月四日に〈立春〉を迎え、〈寒明(かんあけ)〉となります。
小寒の夜半きらきらと洗車場 塚本邦雄
大寒の埃の如く人死ぬる 高浜虚子
大寒の一戸もかくれなき故郷 飯田龍太
節分の祇園に招ばれゐたりけり 黒田杏子
寒明けの波止場に磨く旅の靴 沢木欣一〈春〉
立春の米こぼれをり葛西橋 石田波郷〈春〉
小寒から大寒を経て節分までの季語は冬の歳時記に、「寒」の語は入っていますが寒明は、立春と同じく春の季語なので春の歳時記に掲載されています。
〈寒〉は今のカレンダーで言えば一月にあたりますから、一月限定の季語と言ってもよいでしょう。年内には早すぎ、二月に立春を迎えた後はもう使えない季語です。気合を入れて迎えるせいでしょうか、〈小寒〉より〈寒に入る(動詞)〉〈寒の入り(名詞)〉の例句も佳句も多い気がします。
では、歳時記で寒中の季語を探してみましょう。〈寒〉は「時候」の季語ですが、各章に〈寒○○〉という季語があります。
例えば「天文」には、
寒晴やあはれ舞妓の背の高き 飯島晴子
「地理」には、
寒の水飲むやのんどを棒にして 仁尾正文
水の季語は〈春の水〉〈夏の水〉〈秋の水〉〈冬の水〉と四季それぞれにありますが、河川湖沼の水を指し、基本的には飲みません。〈寒の水〉は飲んだり(とりわけ〈寒九の水〉がよいと言われます)、酒を仕込んだり、と身体に取り込むものとして用いられます。
水が責めぬきし白さよ寒晒(かんざらし) 右城暮石「生活」
「生活」の章にはことに多く、工夫して存えてきた日本人の営みが思われます。
角立ててたたむ手拭ひ寒稽古 戸恒東人
寒肥をまくといふよりたたきつけ 今瀬剛一
「動物」「植物」の章には、他の季節の季語にもなっていて、ことに寒中は、といった趣のものが並んでいます。探してみましょう。
ちなみに、同じ漢字を使いますが〈寒し〉は三冬(初冬、仲冬、晩冬)を通して使える季語です。皮膚感覚に基づく寒さに加えて、心理的な寒さを表すことができ、こちらもまた俳人好みの季語です。(正子)