浪速の味 江戸の味 【一月】 蕪蒸(浪速)
浪速の伝統野菜の一つに「天王寺蕪」があります。蕪は七世紀ごろ、中国から伝わり、古くから食べられてきました。春の七草の「すずな」は蕪の葉を指します。東日本は小蕪が多いですが、天王寺蕪や京都の聖護院蕪は大きめです。聖護院蕪は千枚漬で知られています。
江戸時代初期の生保二年(1645)刊である松江重頼の俳書『毛吹草』に、天王寺蕪が出てきます。また、重頼は天王寺蕪の俳句を詠んでいます。
天王寺蕪も民を助くるなり 重頼 「名取川」
江戸中期以降、料理に関する出版がさかんになります。蕪も漬物や煮物以外に「蕪蒸」などの蒸し物が紹介されています。まず、碗に白身魚の切り身、茸、銀杏などを並べます。塩を少々加え泡立てた卵白と皮をむいた蕪のすり身とを合わせ、具材の上に載せ蒸します。薄口しょうゆと味醂で味を調えた出し汁にとろみをつけます。蒸し上がった碗にその出し汁をかけます。寒い日にぴったりの料理です。
徳岡神泉の絵画「蕪」は、葉を短く切った蕪が一つ描かれています。魂を描くとこの蕪になるのかなと思わせる白い蕪がふわりと浮かんでいます。大根はたくましい感じですが、まあるい蕪は優しい印象を受けます。蕪蒸も優しい料理だと思います。
残業の我に褒美や蕪蒸 洋子