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今月の季語〈十一月〉 十一月

caffe kigosai 投稿日:2021年10月17日 作成者: masako2021年10月18日

封をされたまま放置されたような二〇二一年でしたが、はや〈冬〉となりました。

中年や独語おどろく冬の坂               西東三鬼〈三冬〉

冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ               川崎展宏

今年の〈立冬〉は十一月七日。ちなみにその夜は三日月です。このところ月moonの季語を追ってきましたが、今月から月は〈冬の月〉となります。

立冬のことに草木のかがやける                   沢木欣一〈初冬〉

生きるの大好き冬のはじめが春に似て       池田澄子

耳鳴りは宇宙の音か月冴ゆる                      林 翔〈三冬〉

とはいえ〈十一月〉はまだまだ暖か。「冬のはじめが春に似て」とはそのものずばりです。

あたゝかき十一月もすみにけり                中村草田男〈初冬〉

草田男も十一月はあたたかいと言っています。十二月に入るにあたり、さあいよいよ冬本番と覚悟を決めたのでしょうか。年の瀬を意識せざるを得ない頃合でもあり、その年の過ぎた日々への未練を感じるのは私だけでしょうか。

邂逅の心集へば冬ぬくし                          稲畑汀子〈三冬〉

冬ぬくきことも不安となる世かな              馬場駿吉

新型コロナ感染者数が激減している現在只今の私たちの心情に合致しそうな句を見つけました。 もちろんそういう句ではないのですが。

〈冬ぬくし〉は寒いはずの冬の暖かさを本来は喜ぶ季語です。昨今の温暖化により、受け止め方が変則的になってきていますが、本意を念頭に読めば、季語の効き目がより明らかになるはずです。

 

さて、冬のあたたかさをこの上なく愛でる季語があります。

 

玉の如き小春日和を授かりし                 松本たかし〈初冬〉

 

〈小春日和〉の〈小春〉とは陰暦十月(ほぼ陽暦十一月)の異称、月monthの名前です。つまり小春日和とは十一月のよき日和、という意味ですから、初冬限定の季語となります。三冬使える〈冬ぬくし〉とはその点がまず異なります。

そして「玉の如き」の句の効果とも言えそうですが、つやつやの玉(ぎょく)のようなめでたさがあります。小春日和から温暖化を連想する人はいないのではないでしょうか。

水底の砂も小春の日なたかな                    梅室

小春日やりんりんと鳴る耳環欲し            黒田杏子

小六月花のももいろ朱にまさり               飯田龍太

水底にも日なたがある、という第一句。明るい砂が見えているのでしょうか。真昼の太陽がとろんと映っているのでしょうか。いずれにしても水に激しい動きはなさそうです。

第二句は、小春日より木枯が好きだったという作者の三十代の句。りんりんは心の響きでもあるでしょう。

十一月には朱より「ももいろ」が適っているという第三句。十一月はももいろのあたたかさなのかもしれません。

〈十一月〉の字音数は六音です。面白いリズムの句が詠めそうでもありますし、音数を持て余しそうでもあります。似た意味合いで音数の異なる季語はこのようにいろいろあります。選ぶ楽しみも堪能してみてください。(正子)

 

カフェきごさい「ネット句会(10月)」互選+飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2021年10月8日 作成者: mitsue2021年10月11日

連中:桂、光尾、都、雅子、すみえ、弘道、裕子、涼子、眞理子、ひろ女、隆子、樹林、利通、光枝

≪互選≫
裕子選
火の山の灰もて干さん秋の鯖  隆子
秋の蚊遣り池のほとりの句会かな  桂
草引かずあれば野菊の黄色かな  隆子

すみえ選
ラ・フランスまだ眠りゐる籠の中  光枝
火の山の灰もて干さん秋の鯖  隆子
栗剥くや私のための栗ご飯  雅子

雅子選
新蕎麦や一山越えて水汲みに  桂
蘇鉄の実ブラキオサウルス首伸ばす  涼子
啄木鳥の音冴えわたる避暑地かな  弘道

涼子選
産土の満州遠し天の川  樹林
秋の蚊遣り池のほとりの句会かな  桂
村中に新藁の香の溢れけり  裕子

都選
ラ・フランスまだ眠りゐる籠の中  光枝
火の山の灰もて干さん秋の鯖  隆子
栗剥くや私のための栗ご飯  雅子

ひろ女選
村中に新藁の香の溢れけり  裕子
落鮎に水また青し長良川  利通
蜻蛉の静止してゐる空の中  裕子

樹林選
往還を猫ゆつたりと月今宵  桂
月追へば高速道路ふうはりと  涼子
鳥帰る帰れぬ鳥を後にして  弘道

桂選
浅間嶺を転がりてくる秋日かな  ひろ女
蘇鉄の実ブラキオサウルス首伸ばす  涼子
崑崙の風とたはむれ馬肥ゆる  都

弘道選
産土の満洲遠し天の川  樹林
村中に新藁の香の溢れけり  裕子
裏山の古老の山栗いただかん  裕子

光尾選
後ろ姿が母の背となる良夜かな  樹林
産土の満州遠し天の川  樹林
鳥帰る帰れぬ鳥を後にして  弘道

隆子選
ラ・フランスまだ眠りゐる籠の中  光枝
栗剥くや私のための栗ご飯  雅子
産土の満州遠し天の川  樹林

眞理子選
あかあかと朝日の色の熟柿吸ふ  光枝
ラ・フランスまだ眠りゐる籠の中  光枝
往還を猫ゆつたりと月今宵  桂

利通選
火の山の灰もて干さん秋の鯖  隆子
蘇鉄の実ブラキオサウルス首伸ばす  涼子
往還を猫ゆつたりと月今宵  桂

≪飛岡光枝選≫
【特選】
産土の満州遠し天の川  樹林

空の果てまで続く天の川を眺めていると、世界中で様々な人が同じように星空を眺めているということを実感します。「遠し」は距離の遠さ以上に、心のなかの思いの遠さでしょう。

蘇鉄の実ブラキオサウルス首伸ばす  涼子

太古を思わせる蘇鉄の葉や実。その存在感は恐竜の時代に繁茂した巨大シダ類を思わせます。句はその二つの取り合わせですが、「首伸ばす」の動きで句がいきいきとしました。

啄木鳥の音冴えわたる軽井沢  弘道

原句は「啄木鳥の音冴えわたる避暑地かな」。「啄木鳥」は秋、「避暑地」は夏の季語。作者は啄木鳥の句として、秋の避暑地を描こうとしたのだと思いますが、原句のままでは「避暑地」が夏の姿のまま。提示した形に限りませんが工夫が必要です。秋の澄んだ空気のなか、啄木鳥の音が響きます。

【入選】
火の山の灰もて干さん秋の鯖  隆子

干鯖を言うのに中七の表現が少々重たいですが、脂の乗った秋鯖がいよいよ美味しそうです。

栗剥くや私のための栗ご飯  雅子

栗を剥くのは一苦労。栗ご飯を心に励みます。「私のため」が実感であるだけにより愉快。

月見団子うさぎの跳ねる包紙  都

この包紙でしたら、開く前から美味しいとわかります。原句は「月見団子包みし紙に兎跳ね」。散文から俳句への推敲を。

月光のベールをまとふ天使かな  眞理子

教会というより、ヨーロッパなどの橋にある彫刻の天使を思いました。月の光の中を舞い降りてきたようです。

秋の蚊遣り池のほとりの句会かな  桂

上五の字余りで蚊遣りの存在感が増しました。「秋」ならではのしぶとい蚊。

村中に新藁の香の溢れけり  裕子

秋の情景をしっかりと描きました。「村中」「溢れ」に秋の収穫の喜びが十二分に表現されています。

灯ともせば南瓜ランタン叫びだす  涼子

映画「スリーピーホロウ」の一場面のよう。ハロウィンは秋の行事としてますます盛んになってきました。俳句も作られていますが、今後季語として残るかどうかは名句の誕生にかかります。原句は「灯ともせば南瓜のランタン叫びだす」。

裏山の古老の山栗いただかん  裕子

山栗は小さいのでたくさん食べるのには手間がかかりますが、とても甘く、ありがたい山の恵みです。句の山栗は老木、さぞや滋養ある実がなることでしょう。

「ネット句会」10月 投句一覧

caffe kigosai 投稿日:2021年10月3日 作成者: mitsue2021年10月3日

10月「ネット句会」の投句一覧です。(サイトへのアップが遅くなり失礼しました)
参加者は【投句一覧】から3句を選び、このサイトの横にある「ネット句会」欄(「カフェネット投句」欄ではなく、その下にある「ネット句会」欄へお願いします)に番号と俳句を記入して送信してください。
(「ネット句会」欄にも同じ投句一覧があります。それをコピーして欄に張り付けると楽です)

サイトへのアップが遅れましたので、選句締め切りを10月5日(火)といたします。みなさんの選と店長(飛岡光枝)の選はこのサイトにアップします。(光枝)

【投句一覧】
1 「ウソ?」「ホント!」ふくみ笑ひに秋扇
2 あかあかと朝日の色の熟柿吸ふ
3 いにしへの俳句談義や夜半の秋
4 ケータイに残る動画や秋彼岸
5 こいさんの袂色なき風捌く
6 まるまると今宵の月や重々し
7 ラ・フランスまだ眠りゐる籠の中
8 稲架は木のそれも榛の木写真とる
9 鰯雲ぶらんこゆあ~んと漕いでみる
10 鰯雲またねと別れ会へぬまま
11 瓜坊の不開(あかず)の門をいぶかしみ
12 往還を猫ゆつたりと月今宵
13 火の山の灰もて干さん秋の鯖
14 金秋や降りしきる香にまみれたる
15 金木犀地に彼岸花律儀なり
16 栗剥くや私のための栗ご飯
17 月見団子包みし紙に兎跳ね
18 月光のベールをまとふ天使かな
19 月追へば高速道路ふうはりと
20 倦む日あり嬉しき日あり鱗雲
21 後ろ姿が母の背となる良夜かな
22 山葡萄しづかに過る登山靴
23 産土の満州遠し天の川
24 秋の蚊遣り池のほとりの句会かな
25 秋の日や初そばがきと格闘す
26 食ひきれぬほどの秋果やレジにドン
27 新蕎麦や一山越えて水汲みに
28 新米を磨ぐ音聴いて床離れ
29 浅間嶺を転がりてくる秋日かな
30 蘇鉄の実ブラキオサウルス首伸ばす
31 草引かずあれば野菊の黄色かな
32 村中に新藁の香の溢れけり
33 啄木鳥の音冴えわたる避暑地かな
34 腸を抜いてもらゐし秋刀魚かな
35 鳥帰る帰れぬ鳥を後にして
36 灯ともせば南瓜のランタン叫びだす
37 半袖と長袖も出す今朝の秋
38 落鮎に水また青し長良川
39 裏山の古老の山栗いただかん
40 露の玉小宇宙を秘めてをり
41 崑崙の風とたはむれ馬肥ゆる
42 蜻蛉の静止してゐる空の中

カフェきごさい「ネット句会」10月のお知らせ

caffe kigosai 投稿日:2021年9月24日 作成者: mitsue2021年9月24日

☆「ネット句会」専用の投句欄ができました☆

カフェきごさい「ネット句会」は、どなたでも参加自由です。10月の投句締切りは9月30日(木)です。

・このサイトの右側に出ている「ネット句会」欄より、9月30日までに3句を投句ください。

・10月1日中にサイトへ投句一覧をアップしますので、10月4日までに参加者は3句を選び、投句と同じ方法で選句をお送りください。

・後日、参加者の互選と店長・飛岡光枝の選をこのサイトへアップいたします。

・「ネット句会」欄を設けましたので、投句、選句ともそちらへお送りください。

21日の中秋の名月、東京では雲に隠れながらも美しい姿をみせてくれました。落ち着かない日々は続きますが、秋の夜長を心静かに楽しみたいものです。(店長・飛岡光枝)

今月の花(十月)蘇鉄の実

caffe kigosai 投稿日:2021年9月22日 作成者: koka2021年9月22日

花屋さんで珍しいものをみつけました。

扁平な卵型のオレンジ色の実が大小六個。柄からは薄い茶色のビロードの羽根のようなものが、実を守るようにくるりと一枚。どこかで見たはずと、記憶をたどりながら丸缶に無造作に入っているものをながめていると「蘇鉄の実ですよ」と花屋の社長さんから声がかかりました。

その一言で私は、何十年も前に一瞬で引き戻されました。小学校のクラスメイトで、勉強ができ先生のお気に入りと言われていたその子は、おじい様がとても偉い方だと子供たちの間で噂されていました。

ある朝、その子はくしゃっとした紙袋から一つの植物を出して、黒板の前の先生の机の上に置いたのです。「なにこれ?」と女の子たちが集まりだしました。朱赤の実は、長いところが3センチくらいで、産毛のようなものでおおわれていました。

「蘇鉄の実なんだって、南の島の植物の実」。父上かおじいさまが南に出張した時に入手され、珍しいから学校に持っていって友達にみせたら、と言われたのでしょうか。

種にはサイカシンという有毒物質がある一方、食用にでんぷんが取れます。毒を抜いてでんぷんを取るにはコツがあり、何度も水にさらすなど手間と時間がかかるそうです。株は雌雄あり、中央に花が咲くまで10年位待たなければなりません。雌の株に種ができるのは、秋が進んだ10月ころ。

日本の蘇鉄は九州南部 沖縄 奄美諸島などが産地で、恐竜が闊歩していた時代からあったと言われます。葉を曲げてみるとその強さが手に伝わってきます。高さは2メートル~4メートルで、鱗状の幹は葉柄の基が残ったもの。1メートルにもなる葉は少しカーブを描き柄には深緑で光沢のある細くとがったたくさんの葉がついています。四方八方にのびのびと葉を伸ばした姿を、海岸などで見かけます。場所を取るからでしょうか、お寺や大きなお屋敷によく植えられています。

先日、オンライン講座でこの蘇鉄の実を使いました。竹の籠についてのレクチャーと、籠を使って蘇鉄と花をいけました。世界各国から200人以上の方が同時に見てくださり、蘇鉄の実は「fruit of Sago Palm」と英語で説明しましたが、「あれは何ですか?」という質問は講座の後からも寄せられました。

私の思い出の中の蘇鉄の実が 何十年かけて世界にデヴューしたような気がしました。(光加)

カフェきごさい「ネット投句」(9月)

caffe kigosai 投稿日:2021年9月21日 作成者: mitsue2021年9月21日

【特選】
骨だけの秋刀魚のいよよ長きかな  涼子

秋刀魚は苦い内臓も味わう魚です。骨だけになるまできれいに食べたことがわかる秋刀魚ならではの句。原句は「骨だけになりても秋刀魚長きかな」。原句では状況の説明にとどまってしまいます。

【入選】
新米の白に焦がれし戦後の日  弘道

新米の美味しさは格別。「焦がれし」が切実です。原句は「新米の白きを焦がれし戦後の日」。

秋冷や柱煤けし山の小屋  和子

地上より一足先に寒さがやってくる山小屋。歴史あるその佇まいをしっかり描きました。

待宵や湖面に白き舟一艘  和子

明日の名月を待つ静かな心持。

朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」八月

caffe kigosai 投稿日:2021年9月21日 作成者: mitsue2021年9月21日

新宿朝日カルチャーセンター「カフェきごさい句会」。第一句座の兼題はサイトより、八月の季語「盆の月」、花「実桃」、浪速の味「祭鱧」です。第二句座は席題「新酒」「夜業(夜学)」です。

(第一句座)
【入選】
幼な子も一つ給はる祭鱧  和子

縁起物の祭鱧をいただき一人前に。「幼な子も一つ給はり祭鱧」。

故里は遠き幻盆の月  和子

盆の頃ならではの思い。

砂の城くづれて秋の波頭  涼子

秋の波がさらっていく夏の幻想。

大花火消えて母も消えにけり  弘道

大花火の「大」が切ない。「大花火消えてや母も消えにけり」。

盆の月人それぞれの影を持ち 涼子

より具体的に表現したい。原句は「盆の月人それぞれの影を持つ」。

掌に重き白桃の香の中にをり  和子

「掌に重き」で実のある一句になった。原句は「掌に重き白桃の香に身を浸し」。

あをあをと葉を付けて桃籠の中  光枝

(第二句座)
【入選】
名物の新酒汲みをり旅の果  涼子

「旅の果」が唐突。「名物の新酒汲みをり山の小屋」など。

この香り友に送らむ今年酒  和子

新酒の香りに焦点をあてた。

夜業の灯消して見上げる月まろし  涼子

席題の「夜業」で作った句だが、大きな季語「月」の句としたい。「残業の灯消して今日の月」など。

磐梯山新酒一本背の荷物  光枝

浪速の味 江戸の味 10月【秋鯖】(浪速)

caffe kigosai 投稿日:2021年9月21日 作成者: youko2021年9月21日

食欲の秋です。秋鯖がおいしい季節です。

若狭街道は、若狭湾に臨む福井県小浜から、滋賀県朽木、花折峠を越えて京都へ続く街道です。別名、鯖街道と呼ばれています。

小浜港は江戸時代、北前船が運んでくる物や、日本海の魚介類の水揚げなどで賑わっていました。鯖が水揚げされても、「鯖の生き腐れ」というように、鯖は非常に腐りやすく売り物としての扱いが難しかったので、塩鯖にして京都まで急いで運んでいました。それが若狭街道が鯖街道と呼ばれる所以です。また、若狭では「浜焼き」といって鯖一尾を串刺しにして丸焼きにして、生姜醤油などをつけて豪快に食べたり、鯖を一年間糠漬にした加工食品の「へしこ」が名産として売られています。

鯖鮓といえば、酢で締めた鯖の棒寿司を思い浮かべますが、秋になると、焼鯖鮓が食べたくなります。三枚下ろしにした秋鯖を油と落としながらからっと焼き、鮓飯を棒状にした上にのせて、しっかりと形を整えます。

先日、小浜の焼鯖鮓を買ったのでご紹介しました。我が家では、一塩の鯖を焼き、片身をほぐしてフライパンで炒りつけ、酢飯に混ぜ込んだ簡単焼鯖鮓を作りました。梅干の蜂蜜漬けをアクセントに一緒に混ぜています。

油ののった秋鯖は焼鯖鮓によく合います。

香ばしく焼きし秋鯖棒鮓に    洋子

今月の季語〈十月〉 後の月

caffe kigosai 投稿日:2021年9月17日 作成者: masako2021年9月20日

初秋には〈盆の月〉を、仲秋には〈名月〉を、そしていよいよ晩秋の〈後の月〉を仰ぎます。盆の月と名月は十五夜の月をめでましたが、後の月は満月に二夜早い十三夜の月のことです。秋季最後の月なので〈名残の月〉ともいいます。今年の後の月は十月十八日。晴れますように。

例年名月のころにはまだまだ残暑にあえぎ、後の月のころになってようやく一息ついていましたが、今年は秋の進行が早く、十月にはもう肌寒さを覚えそうです。

みちのくの如く寒しや十三夜   山口青邨

窓ごしに赤子うけとる十三夜   福田甲子雄

わが影の真中がうすし十三夜   西山 睦

十三夜といえば真っ先に思い出すのが青邨のこの句。みちのく出身の青邨が「みちのくの如く」というのですから、この夜はしみじみと冷えたに違いありません。第二句は馥郁とした赤子の香りや重みとともに温もりをうけとった句でしょう。赤子の身になってみれば、宙吊りを楽しんだ(もしくは怖がった)のちの安心感でしょうか。第三句の「影」は実際にうすいというより、身体の芯がやや冷える感覚を視覚へ転化したのではないでしょうか。

入つてくるなり後の月うつくしと 辻 桃子

りりとのみりりとのみ虫十三夜  皆吉爽雨

道すがら後の月をめでてきた人と室内にいた人と。宴を開くどころか、もう外に出てもいなかったことが推測されます。爽雨は、もう時雨にはならない虫の声を詠んでいます。あれほどのボリュームで鳴いていたのに。聴覚が淋しくなってきたら、闇の量が増えたようにも思いませんか?

月白もなく上りけり後の月    草間時彦

山の端に残照とどめ十三夜    岡田日郎

待つでもなく気付いたらもう上っていた第一句。日の入りも早くなったけれども、満月より月の出が早く、なお残照がという第二句。

これらは同時に身ほとりの静謐を語っている気もします。

皿小鉢洗つて伏せて十三夜    鈴木真砂女

墨磨れば墨の声して十三夜    成田千空

かたと擱く筆音の澄み十三夜   大橋敦子

身を以て沈黙の金後の月     丸山海道

真砂女には皿小鉢が、千空、敦子には墨と筆が身に添うものなのでしょう。かそけき音に思わず耳を澄ましてしまいそうです。

麻薬うてば十三夜月遁走す    石田波郷

どこまでも豆名月ののぼるなり  大峯あきら

胸を病んだ波郷が仰ぐのは療養所の窓の月です。雲が走る夜だったのかもしれませんが、「麻薬」のせいでと詠み切る作家魂に思わず背を正します。十三夜の月には豆や栗を供えもするので〈豆名月〉〈栗名月〉の名もあります。「豆」の文字を見ると「どこまでも」のぼって天空にぽっちり懸かる、豆のような月をおのずと想像しそうです。

次の二句は樋口一葉の『十三夜』を踏まえています。

一葉に十三夜あり後の月     富安風生

十三夜幸田弘子の立姿       黒田杏子

俳優「幸田弘子」は樋口一葉作品の朗読の第一人者でした。昨年(二〇二〇年)十一月、八十八歳でお亡くなりになりました。(正子)

 

カフェきごさい「ネット投句」8月 飛岡光枝選

caffe kigosai 投稿日:2021年8月24日 作成者: mitsue2021年8月24日

【入選】
白桃や一心不乱に皮剥きぬ  和子

魅力的な果実、桃はその姿も香りもまとう空気も特別です。桃と自分だけの世界に没頭している姿。「一心不乱」に迫力があります。

賀茂川は恋のはじまり祭鱧 涼子

祇園祭に始まる京都の夏。祭りには鱧が欠かせず、鱧祭とも呼ばれます。祭りの宵は恋の時間でもありましょう。

片影やけんけんで行く男の子  弘道

暑い中でもけんけん遊びに夢中の子ども。それでも自ずと片影を慕って。原句は「片影をけんけんして行く男の子」。

洛東に昔の下宿釣忍  弘道

「釣忍」の季語がいい。この釣忍は、昔から、そして今も窓に吊るされ水を滴らせています。原句は「洛東の昔の下宿釣忍」。

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第三十七回 2026年4月11日(土)13時30分
      (原則第二土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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