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加賀の一盞(三月) 利休忌茶会

caffe kigosai 投稿日:2025年2月21日 作成者: mitsue2025年2月21日

ひと口の和菓子に雅を感じる。金沢に美味しいものは多いが、その一つが和菓子、古くより茶の湯文化と相まって脈々と続いている。茶道は足のしびれを我慢しなければならないが、お菓子と抹茶が楽しめるところ。このコラムを始めるにあたり若かりし頃体験した利休忌茶会を紹介する。

千利休は茶の湯を広く世に示した人物、毎年三月の忌日に茶会を催す。当時習っていた先生は裏千家の業躰(家元で業を体得した師範)で茶会は百数十人の集まりになる。参加の皆さんは着物なので私もお召しに草木染の袴を新調し参加した。

金沢市内の料亭を貸切り、先ずお薄を頂きその後茶懐石へと進む。お菓子はお薄の席で菓子器から一つ頂く。これを主菓子といって練り切りの上生菓子、春の題材で特に利休が好んだ菜の花がこの茶会にはよく選ばれる。口に含めるととろりと解け風雅な味わい。金沢の老舗菓子屋に聞くと季節々々で数百種類の主菓子を作りそれぞれ銘があるとのこと。写真は「春告草」の練り切り。

よどみなくお茶銘問ふや春の雪  淳

茶会は先ず女性から三十名ほどずつ席に入る。男性陣(約二十名)はお点前、お運び、裏方茶筅振りなどの役を務め、最後の席でお薄を頂き茶懐石へと移る。

先ず塗の平盃にかんなべからお酒を注いで頂き乾杯をして料理を頂く。盃からぐい吞みに変ったころから定番の余興が始まる。謡やそれに合わせての仕舞、歌やおもしろ話など。最後は能「高砂」の「四海波静かにて」と「千秋楽は民を撫で」を皆で謡上げ締めとなる。

茶の湯はほとんどの美術工芸を集めた総合芸術、金沢にはそのすべてが用意されている。和菓子を始めとする芸術に触れるのも人生の楽しみのひとつだろう。(淳)

新企画「加賀の一盞」スタートのお知らせ

caffe kigosai 投稿日:2025年2月20日 作成者: mitsue2025年2月20日

「カフェきごさい」サイトに今月より、金沢在住の花井淳さんによる「加賀の一盞」がスタートします。世界中の食、特にお酒への造詣が深い花井さんの記事と写真をどうぞご期待ください。
このシリーズは「浪速の味 江戸の味」と交互に掲載の予定です。三か所から発信される食の様々をどうぞお楽しみに!(店長 飛岡光枝)

今月の季語(三月)水草生ふ

caffe kigosai 投稿日:2025年2月18日 作成者: masako2025年2月20日

春の風は光るといいますが、光るのは風のみにあらず。子どものころの私は、耕しが始まるまでは田が遊び場所でしたから、用水路の音と光、田面の色と感触(ズック靴をどろどろにしては叱られていました)などなど、身の周りのすべてがきらきらし始めることを体で知っていた気がします。

水が光るのは雪解けにもよりますが、水生植物が芽吹き、水中の動物が活動を始めるからでもありましょう。

これよりは恋や事業や水温む        高浜虚子

東京高等商業学校(現・一橋大学)の卒業生を送る句。人も春の到来とともに新しく動き始めます。

水草生ふ水深きことかなしまず            山口青邨

〈水草生ふ〉はミクサオウと読みます。ミズクサオウと読むことも、〈水草生ひ初む〉の形で使うこともあります。この句は皇居の和田堀のあたりで詠まれたようですが、新社会人へのはなむけとも思えそうな句です。青邨は長く大学で教鞭をとった人でした。

水中のいよよなめらか水草生ふ            鷹羽狩行

〈水温む〉と〈水草生ふ〉が表裏一体の季語であることを思わせられる例句です。共に仲春の季語ですが、前者は「地理」の、後者は「植物」の章に収められています。

天地開闢萍の生ひそむる 斎藤愼爾

蓴生う魚たちの眼もふるふると   四ツ谷龍

「萍(うきくさ)」は水底で越冬し、春になると水面に浮いて増え始めます。あっという間に水面を覆う繁殖力に「天地開闢」は実にふさわしく思われます。「蓴(ぬなは)」はその文字で明らかなように「蓴菜(じゆんさい)」のことです。ちなみに萍も蓴菜も夏の季語です。「生ふ」がついて春の季語となります。

水中のみならず水辺にも大きな変化が現れます。

見え初めて夕汐みちぬ蘆の角        太祇

さざなみを絶やさぬ水や蘆の角            村上鞆彦

葦牙の水のつぶやき忘れ潮     佐藤鬼房

>蘆(あし)と葭(よし)は同じ植物を指します。その茎で作った簾を葭簀といいますが、春に芽ぐむときには〈蘆の角(つの)〉〈角組(つのぐ)む蘆〉〈蘆牙(あしかび)〉とするのが一般です。

角や牙のようにつんと尖った芽はたちまち生長し、晩春には若葉となります。

古蘆のけぶりかぶさる蘆若葉        深見けん二

若蘆の葉先の風に揃ひけり                今瀬剛一

前年の枯蘆を刈り取っていない場所には、けん二の句の景が現れます。また、丈がちぐはぐなままそよぐ蘆叢も見たことがありません。共に精緻な写生の技が光る句といえるでしょう。

水音の耳うち荻の角組まれ                 和久田隆子

荻は蘆とよく似ています。芽はどちらも尖っていますが、葉が伸びてくるとススキに似ているほうが荻と判別できます。船頭小唄の「河原の枯すすき」は実は荻のことではないかと、昔、近江八幡の船頭さんから聞いたことがあります。さてどうでしょう。

水辺に降りたら、ぬるんできた水をゆっくり覗いてみてください。(正子)

第二十二回 カフェきごさいズーム句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2025年2月1日 作成者: mitsue2025年2月1日

第二十二回「カフェきごさいズーム句会」(2025年1月11日)句会報告です。((  )は推敲例)。
このズーム句会はどなたでも参加可能です。ご希望の方は右の申し込み欄からどうぞ。見学も大歓迎です。

第一句座              
【特選】
さいはひ橋渡つて仕事始かな      鈴木勇美
菰を着て誰が面影や冬牡丹       葛西美津子
大欅ひび割れさうな冬の空       葛西美津子

【入選】
寒雀小さき礫のごと降り来       たきのみね
(寒雀光の礫となり降り来)
再会の辛子にむせぶおでんかな     鈴木勇美
(再会は辛子にむせぶおでんかな)
咲きながら眠れる冬の牡丹かな     葛西美津子
(くれなゐの眠れる冬の牡丹かな)
掃除会社からバイトの子煤払ひ     上田雅子
(煤払ひ掃除会社のバイトの子)
ストーブに火の揺らめきてポトフかな  高橋真樹子
(ストーブの火の揺らめきてポトフかな)
四世代ゐてなみなみと初湯かな     赤塚さゆり
(初風呂の湯をなみなみと四世代)
買初にすべらぬ箸を夫のため      前﨑都
(買初やすべらぬ箸を夫のため)
ごめ啼くや能登の寒さはいかばかり   葛西美津子
雪煙富士駆け上がりくれなひに     藤井和子
(富士駆け上がりくれなゐの雪煙)
丹頂の求愛のこゑ真白かな       高橋真樹子
(鳴き交はす真白きこゑや丹頂鶴)
冬眠の蛇おそろしき夢に醒め      斉藤真知子
人もまた雪にまみれて雪達磨      高橋真樹子
水仙のみなぎる命束ねけり       伊藤涼子
(水仙のしづかな命束ねけり)
ガザの子にせめての春や早く来い    早川光尾
(ガザの子に小さき春よ早く来い)
数独のなかなか解けぬ寅彦忌      村井好子
  
初雀ベランダの日を啄めリ       飛岡光枝
  

第二句座(席題・土竜打ち、寒夕焼)
【特選】         
土竜打つでたらめの歌大声で      葛西美津子
(土竜打ちでたれめな歌大声で)

【入選】
解体は明日も続きぬ寒夕焼       葛西美津子
(瓦礫解体明日も続く寒夕焼)
へうたんのような男の子よ土竜打つ   高橋真樹子
(へうたんのやうな男の子が土竜打つ)
土竜打ち叩きし縄はぼろぼろに     斉藤真知子
信州の雪舞ひ上げつ土竜打       花井淳
(信州の雪舞ひ上がる土竜打)
藁束もゆきまみれなり土竜打つ     矢野京子
(藁束のゆきにまみれて土竜打つ)
首かしげ鴉見てゐる土竜打       花井淳

土竜打つ戦なき世を願ひつつ      飛岡光枝
 

浪速の味 江戸の味(二月) ふく梅・むすび梅【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2025年1月31日 作成者: mitsue2025年1月31日

ふく梅(下)とむずび梅

東京都文京区の「湯島天満宮」は四五八年に雄略天皇の勅命により創建されたとされ、江戸時代には江戸の天神信仰の中心となり、湯島天神として親しまれてきました。現在では学問の神様として、受験シーズンには合格祈願の受験生で賑わいます。

また、江戸の頃から梅の花見の名所としても知られ、白梅を中心に多くの梅が植えられ、毎年二月から三月の梅まつりの時期には境内はよい香りで満たされます。

「湯島の白梅」を一躍有名にしたのが泉鏡花の小説「婦系図(おんなけいず)」です。何度も映画化、テレビドラマ化され、新派の舞台の代表作のひとつとなっています。

境内での主人公二人の別れのシーンの「別れる切れるは芸者の時に言うことよ、今の私には死ねと言ってください」は国民的名台詞として、私の幼い頃はクレイジーキャッツのギャグなどでもお馴染みで、子ども達も空で言えるほどポピュラーでした。

湯島天神のほど近くに行列ができる和菓子店があります。豆大福が人気の店ですが、梅の花の季節には特に食べたくなるのが「ふく梅」と「むすび梅」です。

「ふく梅」は、梅じそを練り込んだ白あんが皮からほんのり透ける、白梅を模した愛らしい和菓子です。中心の小梅が味のアクセント。

「むすび梅」は大豆を混ぜたおこわに昆布が入ったおむすびですが、その様子は今流行りの挟むおむすびのよう。こちらも小梅がひとつ付いており、受験勉強の夜食などにぴったりです。

訪れた一月中旬は受験シーズン真っただ中。咲き初めた白梅の傍には、奉納された絵馬が風にからから音を立てていました。合格祈願の絵馬に混ざって、だるまに目を入れた合格御礼の絵馬もあり、できるならみんなに合格してほしい!と願わずにいられない春の初めでした。

昨夜氷り朝ほころぶ梅の花  光枝

今月の花〈二月〉 連翹

caffe kigosai 投稿日:2025年1月30日 作成者: mitsue2025年1月30日

ウクライナの連翹

1センチにもならない茶色の蕾の先にかすかに顔をだした黄色は花びらの一部。初めてこの枝をいける生徒さんは連翹を手にして 「これは曲げることができますか?」と聞きます。

春のいけばな教室の何時もの光景です。私は、「やってごらんなさい」とアドバイス。

やがてぱちんという小さな音と、「あ!」という声。意地悪をしているのではありません。こうやって、失敗しながら手に覚えさせていくのです。

連翹は枝の中心の部分が空洞になっていて、曲げようとしても折れやすく、枝ぶりの美しさをそのまま使うのが一番なのです。

鮮やかな黄色のこの花木(かぼく)は、春の代表的な花材の一つ。他にも山茱萸や万作などは葉が出る前の枝に黄色い花が付き、1月の中頃から花市場に登場します。

季節が進むと、その黄色の鮮やかさが春の青い空に映えます。

ヘルシンキ、オーストリア、韓国、ドバイ。私は連翹の花をいけた土地とそれぞれの「レンギョウ」の姿を思い出します。いずれの土地でもそんなに高い木にはなりません。

すっと伸びた枝を持つもの、蔓のようになったものなど様々で、しだれた黄色い花の枝が地に着くとそこから根を下ろすという生命力の強いモクセイ科の中国原産の植物です。

いけばなに必要な線の要素を持つものとして、ありがたい存在です。夏季にはげんなりする暑さの中でも緑の葉が出て、この時期の数少ない緑の枝ものとしてお稽古に使われます。

シナ連翹の変種といわれる朝鮮連翹、また、シナ連翹とレンギョウを掛け合わせたものがドイツで栽培されており、黄色い大きな花を咲かせると聞きました。

私がオーストリアで見たものはこの種類だったのでしょうか。

ある日お稽古の途中で、一人の生徒が携帯を開いて「これと同じでしょう?」と声をかけてきました。ウクライナの出身の方で、以前可愛いお嬢さんをつれて来たことがありました。

写真は鮮やかな黄色の花の壁。「きれいねえ!!日本のより、花が大きいわねえ」「端に写っているのはお嬢さん?」。いけていた人たちも手を止めて携帯の画面をのぞき込みました。

彼女の家は首都キーウから車で4時間ほど。「家の近くの道に咲いていたけれど、今はもう、危なくて帰れない」とすこし声を落としました。

いつかこの季節、あふれるばかりに黄色に咲き誇っている花の道を一家で散歩することが早くできるように、と心から願うのでした。
(光加)

今月の季語〈二月〉 風光る

caffe kigosai 投稿日:2025年1月13日 作成者: masako2025年1月23日

春の風は光ると初めて耳にしたのはいつのことだったでしょうか。

風光りつゝ漣を作りつゝ                          高木晴子

風光りすなはちもののみな光る              鷹羽狩行

野山で遊んだ体験から、私がまっさきに肯うことができたのはこうした自然の光でした。雪解けの水も芽吹きも、どれもちらちら光って、外遊びの子どもの心を高揚させてくれました。

風光る白一丈の岩田帯                             福田甲子雄

産むために帰るふるさと風光る              鶴岡加苗

大人の心も、例えば命の誕生を待って輝きます。昨今は温暖化の影響でおかしなことになっていますが、それでも春の匂いを嗅ぎ当てると嬉しくなります。春の風は期待感を運ぶのかもしれません。

春風や闘志いだきて丘に立つ         高浜虚子

古稀といふ春風にをる齢かな         富安風生

虚子の春風はシュンプウ、風生はハルカゼと読めばよいでしょうか。同じ春の風でも読みによって印象が変わります。

兄妹にはるかぜ海を見にゆかむ              山田みづえ

春風に此処はいやだとおもって居る          池田澄子

みづえは読みを指定しています。澄子の春風はどうでしょう。風圧が「いや」ならシュンプウ、生ぬるさが「いや」ならばハルカゼでしょうか。あなたはどちらで読みますか?

泣いてゆく向うに母や春の風              中村汀女

ストローの向き変はりたる春の風            高柳克弘

「の」が挟まれば確実に優しい風になるようでもあります。

風吹くや耳現はるゝうなゐ髪              杉田久女

をさなごに生ふる翼や桜東風                仙田洋子

春になると、気圧の配置により日本列島は太平洋からの風を受けます。五行の考え方に則っても「春」の方角は「東」。〈東風(こち)〉は春を象徴する風といえるでしょう。

貝寄風や若く死にたる弟に                  榎本好宏

涅槃西風濁りて浪も黄なりけり              石塚友二

芋銭河童に踵のありて彼岸西風              神蔵 器

〈貝寄風(かひよせ)〉〈涅槃西風(ねはんにし)〉〈彼岸西風(ひがんにし)〉は西から吹く風です。貝寄風は聖霊会(聖徳太子の命日、旧暦2月22日)に捧げる貝殻を吹き寄せる風の意。好宏は弟を思うよすがにしています。涅槃西風は涅槃(旧暦2月15日)のころ、彼岸西風はお彼岸のころの西風です。

八荒の雲とも見えて比良の方                能村登四郎

春一番灯台守を眠らせず                    吉年虹二

春疾風すつぽん石となりにけり              水原秋櫻子

太陽にしろがねの環春北風                  森 澄雄

〈比良八荒〉〈春一番〉〈春疾風(はるはやて)〉〈春北風(はるきた)(はるならひ)〉は強い風です。

風の名前はバラエティーに富んでいます。時期、方角、強さ、それに伴うイメージの違いを意識しながら、詠み分けてみませんか。

(正子)

 

浪速の味 江戸の味(一月) ちゃんこ鍋≪初場所≫【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2024年12月29日 作成者: mitsue2024年12月29日

二〇二五年は一月十二日から始まる初場所。東京の正月らしい青空の下、両国国技館には色とりどりの力士の幟がはためき、否が応にも新年の気分が盛り上がります。

江戸時代から勧進相撲が開かれていた回向院、そして国技館のある両国にはちゃんこ鍋屋さんが多く、関取の名を冠した店やりっぱな土俵を設えた店など様々あり、所属した部屋の味を受け継ぐ美味しいちゃんこ鍋が味わえます。

「ちゃんこ」の語源は、父さんを意味する「ちゃん」に親しみを込めて「こ」を付けたとか、料理番の古参力士を「父公(ちゃんこう)」と呼んでいたからなど諸説あるようです。相撲部屋の料理は全て「ちゃんこ」と呼ばれることはよく知られており、その代表格が「ちゃんこ鍋」です。

鍋料理は様々な食材が同時にとれる上、味の変化がつけやすく毎日食べても飽きません。ちゃんこ鍋の基本は鶏のソップ炊き(スープ炊き)だと言われています。それは鶏は二本足で立ち、手を付かないので相撲に負けないという縁起を担いでのことだそうです。現代では牛肉や豚肉も食材にしますが、正月は鶏肉のちゃんこ鍋を食べる文化が残っているそうです。

写真は両国駅前「安美」のちゃんこ鍋。青森県出身、伊勢ケ濱部屋の関取「安美錦」関(現在は年寄安治川)の店で、魚や鶏肉のつみれ鍋が評判です。相撲甚句が流れる店ではちゃんこ鍋ランチが手軽に楽しめ、近隣の会社員も多く訪れます。

長く照ノ富士の一人横綱が続いている大相撲。先場所初優勝の「琴櫻」、鋭い出足の「豊昇龍」、そして大銀杏も間に合わぬほどのスピード出世を遂げた「大の里」と、この初場所は話題が満載です。相撲を楽しみ、ちゃんこ鍋をつつきながら、一日一番、足腰の粘り強い一年を送りたいものです。

初場所や潮のかをりの隅田川  光枝

みなさま
今年も「カフェきごさい」を応援いただき、ありがとうございました。
どうぞよいお年を!

今月の花〈一月〉蛇の目松・若松

caffe kigosai 投稿日:2024年12月27日 作成者: mitsue2024年12月29日

福島光加の作品
(左が蛇の目松)

12月に入ると、花市場ではお正月に飾る松市が開かれます。月初めの日曜かそのあとの日曜日で、何日かして千両市があります。

「今年の松は色がでている」「小ぶりだ」などの情報が入り、月末のお正月花のお稽古に生徒さんたちが松を決める時に役に立ちます。私の先生の代からお付き合いのある花屋さんの、知り合って何十年のスタッフに「先生、今年は蛇の目松はとても高いですよ!」と言われたときは驚きませんでした。いつまでも続いた夏の異常な暑さは、人間だけでなく植物にいままでにない影響を及ぼしたことは、花が高くなっていることからも想像はつきました。

大王松、若松、根引きの松、五葉松のほかそれぞれに表情のある松をいけるのは年末の楽しみです。その中でも来年は巳年なので蛇の目松をいけると決めていました。蛇の目松は中心から黄色い葉が先に行くほど緑になります。去年は、葉がたくさんしっかりとついていて、枝も微妙な曲線を描く蛇の目松を手に入れることができました。私の住んでいる東京では松を飾るのは松の内、つまり1月7日でおしまい、というのが正式らしいのですが、近年になく美しかったので年神様を粗末にしては罰が当たる、という理由をつけて1月の最後の週まで飾っていました。

「日本は照葉樹林文化、冬になって葉が散ってしまう樹々が多い中、常緑樹の松の姿に神聖なものを感じたのでしょう」と、なぜ新年に松をいけるのかを教室の外国の方たちに説明しました。日本の神様は一神教でないからGodではなく小文字のgodあるいはgodsで、新しい年は松に年神様をむかえて始まるのです、と。

日本の植物にもいろいろな意味があるのね、と言ったのはウクライナの3人のお子さんを持つお母さん。彼女は自分の国でデイドウクと呼ばれる、クリスマスにテーブルの真ん中に置く麦の束の飾りを持ってきてくれました。ウクライナは世界でも知られた麦の生産国です。手作りの飾りには国旗の色の青と黄色の小さな花がちりばめられていました。

彼女たちには生えてから3~4年の若松をいけてもらいました。今年の若松は房が美しく、酷暑の夏をこしてもきれいな緑色でした。ふと見ると、中のひとりが片端から若松の房を曲げています。半年前に日本に来た方で、お正月を迎えるのは初めてです。「なぜ曲げるの?すっとした姿で葉も色もきれいでしょう?」と言うと、なんだか単純だからと言います。私の英語の説明が不十分だったのだろうか。初めてならまずこの房の形を生かした方がいい、と言いかけて、複雑な思いが私の内をよぎりました。本当なら大学生活を満喫している年齢です。自分の思い通りになる植物。そして居たい場所にいられない自分。

日本のお正月の、街角の門松や飾りやいけばなを見て、次の年にお正月花をいけるときには彼女は変わっているだろうか。状況が好転して日本を出ているだろうか。

私は去年素敵な蛇の目をいけたので、今年は緑の房が特に美しい若松をその特徴を生かし、世界の平和を願っていけることにしました。

今年も私の植物の物語にお付き合いいただきありがとうございました。皆様にとって来年がより良い年となりますよう。(光加)

第二十一回 カフェきごさいズーム句会報(飛岡光枝選)

caffe kigosai 投稿日:2024年12月25日 作成者: mitsue2024年12月25日

第二十一回カフェきごさいズーム句会 (2024年12月22日)句会報告です。
「カフェきごさいズーム句会」は、どなたでも参加いただけます。ご希望の方は右の申し込み欄からどうぞ。見学も大歓迎です。

第一句座              
【特選】
ともかくも冬至は餃子の欠かせない     周龍梅
(ともかくも冬至は餃子欠かせない)
冬薔薇人待つごとき蕾かな         斉藤真知子
(冬薔薇人待つごとく蕾あり)
しまひ湯の妻に柚子の実ひとつ足す     斉藤真知子
北国の不機嫌の並ぶ牡蠣の口        高橋真樹子
(北国の不機嫌並ぶ牡蠣の口)

【入選】
いづこより湧きゐる水や冬芹田       村井好子
(いづこより湧きでる水や冬芹田)
仕舞風呂捥ぎたての柚子一つ足し      藤倉桂
何編むにあらず真紅の毛糸買ふ       葛西美津子
数へ日やまだ捜し物してをりぬ       前﨑都
(数え日やまだ探し物見つからず)
侘助に聞かれてゐたり独り言        葛西美津子
ときどきは気が乗らぬ日も猿回し      斉藤真知子
野川てふやさしき名もて川枯るる      たきのみね
(野川てふやさしき名もて冬枯るる)
鬼ごつこ銀杏落葉をまき上げて       鈴木勇美
手渡せることも喜びお年玉         高橋真樹子
(手渡せることの喜びお年玉)
マッチ擦る祖母の手夜の玉子酒       たきのみね
討入りの日我ら句会に集ひけり       前﨑都
冬麗の真白き富士へ一機かな        伊藤涼子
(冬麗の真白き富士へ一機行く)
三姉妹大中小に着ぶくれて         鈴木勇美
(三姉妹大中小と着ぶくれて)
寒風を行くただ人に会わんため       たきのみね     
(寒風を行くただ一人に会はんため)
初詣この大杉と幾十年           花井淳
移り住み京の雑煮に馴染みけり       斉藤真知子
鴨の陣水にゆはへてあるやうな       葛西美津子
指先の触るればふはり冬木の芽       村井好子
(指先に触れる確かさ冬木の芽)
我めがけヒマラヤ杉の落葉降る       伊藤涼子

どの家も冬至の風呂の沸くころか      飛岡光枝

第二句座(席題・雪だるま、冬帽子)
【特選】         
喜びのでんぐり返る雪だるま        周龍梅
もう誰の手にも負へずよ雪まろげ      葛西美津子

【入選】
どこまでも父の冬帽目じるしに       矢野京子
(雑踏を父の冬帽目じるしに)
今日買ひし冬帽子今日失くしけり      村井好子
男来る今年も同じ冬帽子          斉藤真知子
再会のうれしさにある冬帽子        斉藤真知子
(再会のうれしさにあり冬帽子)
イーハトーブ抱きしめ歩む冬帽子      藤倉桂
泣きべその片目となりぬ雪だるま      葛西美津子
夜勤明け耳まで被る冬帽子         上田雅子
髪怒る冬帽風に奪はれて          藤倉桂

出棺の胸元に置き冬帽子          飛岡光枝

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)はズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。

  • 第二十六回 2025年5月10日(土)13時30分(原則第二土曜日です)
  • 前日投句5句、当日席題3句の2座(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
  • 年会費 6,000円
  • 見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。
  • 申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。サイト「カフェきごさい」店長。俳句結社「古志」題詠欄選者。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。俳句結社「青麗」主宰。句集に『玩具』『花実』『青麗』。著書に『子どもの一句』『日々季語日和』『黒田杏子の俳句 櫻・螢・巡禮』。和光大・成蹊大講師。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。
花井淳(はない じゅん)
5月生まれの牡牛座、本業はエンジニア、これまで仕事で方々へ。一番の趣味は内外のお酒。金沢在住。
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