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今月の季語(八月) 秋の雲

caffe kigosai 投稿日:2023年7月17日 作成者: masako2023年7月19日

立秋を過ぎても暑さはおさまりませんが、空の色と雲の形がどことなく変わってきます。秋は風の音からと詠んだ古人もいますが、雲の様相から、といってもよい気がしています。

まず雲のキャンパスである空の句から読んでいきましょう。

秋空や高きは深き水の色             松根東洋城

秋空へ大きな硝子窓一つ                            星野立子

東洋城の空は深みがあって透き通った色です。空と線対象になった深い水まで見えてきそうです。立子の句は、外からの視線であれば、硝子窓に空が映っているでしょう。内からであれば、きれいに磨かれた硝子窓が切り取る空です。どちらの視線も、澄んで明るい空を捉えています。現実の秋の空は、晴れることもあれば雨雲に覆われていることもありますが、季語の「秋の空」はいつも爽やかに晴れ渡っています。

上行くと下くる雲や秋の天                       凡兆

秋空や展覧会のやうに雲                           本井 英

この二句には雲が登場しますが、主役はやはり空です。雲が上と下ですれ違えるほど高い空です。また、展覧会の絵のように、雲をいくつも展示できる広い空なのです。高く広く澄んだ空に浮いたり、漂ったりするのが「秋の雲」です。

ねばりなき空にはしるや秋の雲               丈草

噴煙はゆるく秋雲すみやかに                   橋本鶏二

台風一過の空を寝不足の目で見上げた朝、丈草の句を思い出したことがあります。鶏二の句は、同じような白さで空にあっても、動きが違うといっているのでしょう。

秋の雲立志伝みな家を捨つ                                   上田五千石

前の二句とは質感も情感も異なりますが、志を胸に身一つで、と考えますと、これもまた軽やか。「蟾蜍長子家去る由もなし 中村草田男」と合わせて読むと「家」の重さを実感します。

「秋の雲」は総称ですから、何雲を指してもよいはずですが、鰯の群れのようであれば「鰯雲」、鯖の背の模様のようであれば「鯖雲」、羊の群れのようであれば「羊雲」とその名を呼ぶでしょう。

鰯雲人に告ぐべきことならず                               加藤楸邨

妻がゐて子がゐて孤独いわし雲                           安住 敦

鰯雲甕担がれてうごき出す                                   石田波郷

楸邨も敦も暗い目をして雲に対しているのでしょうか。波郷の「甕」は野辺送りの甕でしょう。それに対して、

鰯雲鰯いよいよ旬に入る                                       鈴木真砂女

ああそうか昼食(ひる)は食べたのだ鰯雲       金原まさ子

こちらのあっけらかんとした生活感はどうでしょう。

鯖雲に入り船を待つ女衆                                       石川桂郎

鯖の背の斑紋を連想させる鯖雲が出現するのは、秋鯖の漁期と重なるのだとか。この句はまさにその景を示しています。

牧神の午後はまどろむ羊雲                                   高澤晶子

羊の群れのようだと空を仰ぎ、きっと良い天気なのでしょう、牧神のいねむりを想像しています。秋の空は広く、雲は軽やか。現実から空想まで、いろいろに詠み分けてみませんか。(正子)

 

第四回 カフェきごさいズーム句会報告

caffe kigosai 投稿日:2023年7月14日 作成者: mitsue2023年7月14日

ズームで行う「カフェきごさいズーム句会」今月の報告です。

第四回 2023年7月8日(土)

飛岡光枝選
≪第一句座≫ 当季雑詠

【特選】
笑はせて笑はせられてさくらんぼ     真樹子
抜けし我が羽根とも知らず踏みゆけり   真知子
誰待つとにあらねど風の竹床几      美津子

【入選】
ほととぎす止むを待つてのティーショット 光尾
夜濯や夜も明るき街に住み        都
艶やかな茄子を主役に夏料理       雅子
病む夫と歩幅合はせて茅の輪かな     桂
田の神が渡つて行くや青葉風       桂
目標の日に八千歩雲の峰         京子
朝一番生死確かむカブト虫        都
茅の輪くぐる少し変身したやうな     都
白蓮の夜明けの空に月残る        美津子
遠雷や眠りの淵をうろうろと       美津子

≪第二句座≫ 席題;甘酒・七夕

【特選】
暗く深き室にふつふつ一夜酒       美津子
七夕竹叶はぬ願ひずつしりと       雅子
  
【入選】
七夕はつれなき雨に流れゆく       和子
短冊に書くは体のことばかり       光尾
甘酒を啜り一息山の小屋         和子
世界中の星に願はん平和の世       雅子
一匙に母の笑顔や一夜酒         桂
我熱く夫は冷たく一夜酒         雅子
軒下に覗く七夕飾りかな         和子

  

浪速の味 江戸の味(七月) かき氷【江戸】

caffe kigosai 投稿日:2023年6月28日 作成者: mitsue2023年6月28日

蒸し暑い日本の夏を彩る「かき氷」。近年は様々なトッピングのかき氷も登場し、
幼い頃食べていたシンプルなかき氷とは別物の感があります。

平安時代の『枕草子』にかき氷が登場することはよく知られています。清少納言が「あてなるもの(上品なもの)」として「削り氷に甘葛(あまずら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」と書いた当時の氷は氷室で保存した天然氷でした。

夏の氷が貴重だった時代は長く続き、江戸時代末には船で北国の氷が大量に運ばれるようになりましたが、それでも庶民の身近になったのは明治時代になってからです。

明治維新でいち早く開港した神奈川県の横浜は、様々な「日本初」が誕生した土地です。日本初のかき氷店も明治2年に横浜で生まれました。その後東京でも明治後半には、夏はかき氷、他の季節は焼芋、汁粉などを出す店が増えていきました。

遠い昔の氷室の時代から明治初期までは天然氷しかありませんでしたが、その後製氷技術の発展により氷は各家庭でも利用できる時代がきました。

何でも簡単に手に入るようになった時代の反動か、ここ十年くらい前から「天然氷」を売り物にしたかき氷店が急速に増えました。東京近郊では日光や秩父の天然氷がよく知られており、写真のかき氷は八ヶ岳の天然氷を使っています。

天然氷のかき氷はふんわりした食感です。冬の間、何週間もかけてゆっくり凍らせた天然氷だと思うと、心なしか上品な風味を感じます。鉋で削り、シンプルな蜜をかけ、銀の器で供す、そんな枕草子風(!)の削り氷を出す店がそろそろ出てくるかもしれません。

水平線に大きな夕日かき氷  光枝

今月の花(七月)ブルーベリーの実

caffe kigosai 投稿日:2023年6月20日 作成者: mitsue2023年6月20日

「やっぱりブルーベリーパイにするわ」という親友に思わず「私も!」とウエイターを振り返りました。久しぶりの東京の老舗ホテルのカフェ。ブルーベリーパイはこの店の名物です。

パイの表面の交差したパイ生地の下に見える濃い紫のブルーベリーのフィリングは約半世紀前の開店時から同じレシピで作られているそうで、すこしシナモンが入り酸味とのバランスもよく、甘すぎないところが私たちのお気に入りです。

子供の頃はそんなパイがあるとは全く知らず、ましてやブルーベリーが何なのかもわかりませんでした。いけばなを初めた当時も花材として登場することはなく、ここ数年いけられるようになりました。

今でも都会ではスーパーに売っている実は別として、花屋さんで鉢植えで売っているものを見かけるくらいでしょう。一方長野県をはじめ、ブルーベリーを作っている農家は各地にあり、いちごやリンゴ、ブドウなどとならびブルーベリー狩りを売り物にしている生産農家もあります。

ブルーベリーはツツジ科です。枝に鋏を入れようとすると思ったより硬く、濃い茶色のつつじの枝も切る時は一瞬抵抗されるような感触が手に残り、まさしくブルーベリーはツツジ科だということが納得できます。先が少しとがった葉は紅葉します。たくさん種類がありますが、食用は主に三種類です。

「これは何ですか?」先日のお稽古での初心者からの質問は、新緑が、花屋さんの言葉では少し(固まってきた)、つまりしっかりしてきた状態の葉のついたブルーベリーの枝を前にした時でした。

5~6ミリほどの艶なしの薄緑の実は、多いところは二十個ほどが先端の葉の下についていました。「目にいいというブルーベリーは知っているけれど、枝についているのを見たのは初めて」だそうで「この枝をこのまま陽に当てておくと食べられるような濃い紫に熟すのかしら」と彼女はしばし見入っていました。それは無理かもしれませんが 挿し木で根付くことは多いようです。

「せっかくだから実を目立たせるために葉をすこし取ってみたら」と私はいけかたをアドバイスしました。

早くもこの季節に小さな実をつける植物は、秋の実とはまた違いこれから先の自然の中の日々を想像させる楽しみがあるような気がします。太陽の光をため込みつつ豊かに成長していきやがて濃い紫の実のなる時を待つことにしましょう。(光加)

今月の季語(七月) 夕立

caffe kigosai 投稿日:2023年6月17日 作成者: masako2023年6月20日

〈七月〉は水の無い月であるはずなのに、昨今は水の印象が強くなっています。梅雨が長引いたり、早々に台風が来てしまったり、頻繁にゲリラ豪雨に襲われたりするからかもしれません。昼間は晴れて暑く、午後雲行きがあやしくなり、一雨のあとはすかっと涼しく、という昔ながらの夏の一日を懐かしみつつ、今月は「夕立」の句をたっぷり読んでみましょう。

祖母山も傾山も夕立(ゆだち)かな                     山口青邨

まずはこの句から。祖母山は大分、熊本、宮崎の三県にまたがる山です。傾山はその前山、大分と宮崎の県境にある祖母山系の山です。青邨はこの句の自註に「そぼさん」「かたむくさん」とルビを振っていますが、一般に傾山は「かたむきやま」「かたむきさん」と呼ぶようです。

昭和八(1933)年、仕事で鉱山を訪ねた帰り、道が悪いので馬のほうが楽だといわれ、「杣人についてもらってぱかぱかと歩いた」のだそうです。

「そのうちに山の方は空模様が変って夕立雲が祖母山をおおいかくした。見るまに傾山も見えなくなった。雲は真黒く、雨脚が見えて夕立が烈しく降っているようであった。この光景は雄壮であった。」

馬上で何度も振り返りながら眺めていた青邨でしたが、あっという間に雨に追いつかれてしまったとのこと。

さつきから夕立の端にゐるらしき                      飯島晴子

夕立は一塊の生き物のようです。このとき晴子の頭上は半分青かったかもしれません。照ったり降ったりする中を歩きながら、「端」にいるのかも、と思ったのでしょう。

法隆寺白雨やみたる雫かな                                      飴山 實

白雨は夕立のこと。視界が白く閉ざされるほどの雨です。法隆寺で激しい降りに見舞われた作者は、堂塔のどこかで過ぎ去るのを待っていたのでしょう。案の定ひとしきり降ったあと、すっきりと雨が上がり、庇から落ち続ける雫には、日が差してきているようにも感じます。

薬師仏白雨はゆめのごと過ぎし                        鍵和田秞子

「平泉 七句」と前書があります。となれば「ゆめ」とは〈夏草や兵どもが夢の跡 芭蕉〉の夢を受けているでしょう。白雨は鬨の声のように激しく、束の間に過ぎたのかもしれません。七句の内にはもう一句〈白雨去り日の一すぢを光堂〉と白雨の句があります。

東京を丸ごとたたく夕立かな                                     渡辺誠一郎

前の句は、東京の人が詠んだみちのくの句ですが、こちらはみちのくの人が詠んだ東京の句です。上京の折に見舞われたのでしょう。高層ビルの間にまっすぐに立つ白い雨脚、舗装され尽くした地を打つ音、――みちのくの夕立とは異なるものであったに違いありません。

夜を叩いてスコールの通りけり                         倉田紘文

すみずみを叩きて湖の驟雨かな                       綾部仁喜

〈スコール〉〈驟雨〉は夕立の傍題です。スコールは熱帯地方の驟雨のことですが、今や降れば必ずスコール状態の日本です。驟雨はすでに元禄(江戸時代)のころには用例の見られる語ですが、どちらの句も極めて現代的な景に思えて来るのは、音の響きによるでしょうか。

夕立は傍題の多い、つまりそれだけ暮らしになじんだ季語です。表記や音の響きを選んでとりどりに詠んでみましょう。(正子)

 

第三回 カフェきごさいズーム句会報告

caffe kigosai 投稿日:2023年6月11日 作成者: mitsue2023年6月11日

2023年(令和5年)6月10日

飛岡光枝選
第一句座              

【特選】

  てのひらの木もれ日を汲む岩清水     伊藤涼子
   蟻一匹抱へきれざるもの抱へ       葛西美津子
   裏路は十薬通りとなりにけり       伊藤涼子

【入選】
  
  急がねば百の桃へと袋かけ         斉藤真知子
  鵜一羽杭にとどまり走り梅雨        上田雅子 
  潮風の恵みたつぷり枇杷熟るる       前﨑都
  雲海の蒼く明けにし月の山         葛西美津子
  大空にはや夏のあるハンモック       高橋真樹子     
  ハンモック夢も浮かんでをりにけり    伊藤涼子 
  釈迦堂へ千の石段梅雨晴れ間       前﨑都
  土もよし水よし新茶香りけり       矢野京子
  みづうみは氷河の雫カヌー出す      高橋真樹子
  麦飯を喰らひ戦後を生き延びて      前﨑都
  二階から二階見てゐる合歓の花      高橋真樹子
  母の帯締めてすがしや初浴衣       高橋真樹子
  地震続く能登や婆さまの鮑とり      花井淳
  風薫る公園ベンチで宿題を        矢野京子
  水の中背伸びしてゐる早苗かな      藤井和子
  
     
第二句座(席題、水遊び 梅雨茸)
【特選】

  人の世の話聞きをる梅雨茸  斉藤真知子
  水遊あの頃はまだ母若く        赤塚さゆり
  太陽にとことん愛され水遊び      藤倉桂

【入選】
  
  梅雨茸のひよつこり顔出す棕櫚の鉢   伊藤涼子
  びしよ濡れの服いかにせん水遊び    斉藤真知子
  不意打ちの水鉄砲を浴びにけり     伊藤涼子
  白々と一夜に生えし梅雨茸       葛西美津子
  鳥の糞ひとすぢかかる梅雨茸      高橋真樹子
  最後には裸になりぬ水遊び       上田雅子
  誰よりも母が本気の水合戦       葛西美津子
  梅雨茸蹴とばしながら球探す      花井淳
  浴室のアトムとウラン水遊び      花井淳

浪速の味 江戸の味 6月【魚そうめん】(浪速)

caffe kigosai 投稿日:2023年6月1日 作成者: youko2023年6月4日

暑くなってくると、さっぱりして、つるっと食べられる冷素麺が食べたくなります。

大阪や京都では、夏になるとかまぼこ店に、その素麺を思い起す「魚そうめん」が並びます。かまぼこ店の魚そうめんは、白身魚のすり身を麺状にしたもので、その名前通り、素麺つゆにつけて食べたり、椀だねにしたりします。食感はかまぼこですが、見た目が涼やかで夏の食卓に上ります。祇園祭や天神祭の時のごちそうの一品にもなります。

もう一つ、かまぼこ店の夏季の名物が「あんぺい」です。見た目が似ている「はんぺん」はつなぎに山芋粉などのつなぎを使いますが、「あんぺい」は魚のすり身だけを柔らかく練り上げて蒸したものです。食べるとふわっと魚の風味が口に広がります。わさび醤油で食べたり、椀だねにもなります。

かまぼこの特徴は、旨さと弾力ですが、大阪かまぼこは、弾力より旨さにこだわってきました。明治から大阪では鱧をよく使っていましたが、現在もそれは受け継がれています。

『大阪食文化大全』によると、かまぼこの名前が文献にあらわれるのは永久三年(1115年)。関白右大臣藤原忠実が催した祝宴のメニューに登場します。今でいう焼き竹輪に似たものであったらしいのです。かまぼこの語源は、ガマの花穂に似ているからとのこと。江戸時代に板付かまぼこが一般化したようです。

「魚そうめん」や「あんぺい」はタンパク質もとれるので、食欲がなくなる夏を元気に乗り切るのに役立っていると思います。

魚そうめん祭支度のはじまりぬ  洋子

第二回 カフェきごさいズーム句会報告

caffe kigosai 投稿日:2023年5月17日 作成者: mitsue2023年6月11日

2023年(令和5年)5月13日

飛岡光枝選
第一句座              
【特選】
  オオイヌノフグリ踏み分け猫の行く     早川光尾
  吹かれきし花ひとひらを葛干菓子      矢野京子

【入選】 
  新緑の海を泳ぎて峠越え          藤井和子 
  真緑に染まる魂菖蒲の湯          藤倉桂
  皺深き手こそ玉なり桜餅          藤倉桂
  この星の割れていく音底雪崩        藤井和子
  孫娘曾孫も娘粽食ぶ            赤塚さゆり
  母の日や飛び切りの肉下げて来し      前﨑都
  紫陽花の毬の中から青蛙          葛西美津子
  囀りや大拙館の一樹より          花井淳
  まつすぐに海へ駆けだす子供の日      伊藤涼子
  亀親子鼻突き出して夏の川         藤倉桂
  うぐひすや町内みんな顔を上げ       早川光尾
   

第二句座(席題、カーネーション 夏帽子)
【特選】
  遙かなる遺影の君よ夏帽子         上田雅子
  一輪のカーネーションの華やぎよ      藤井和子

【入選】
  夏帽子形ととのへこの箱へ         前﨑都
  山荘に夏が忘れし夏帽子          葛西美津子
  リビングに汐の香りや夏帽子        伊藤涼子
  夏帽子一陣の風の奪ひたる         藤井和子
  子のヰない君へ供へるカーネーション    花井淳
  

今月の花(六月) 山法師

caffe kigosai 投稿日:2023年5月16日 作成者: mitsue2023年5月16日

「あら。きれい!!!」生徒さんが思わず声をあげました。連休の後のはじめてのお稽古で、花材を包んであった古新聞をとるとそれは山法師でした。

山法師は、五、六月になると長さ3~6センチの十字の白い苞を付けた花が多数咲き、その枝と濃い緑の葉とが重そうに重なり、こんなとこにあったのかとその存在をあらためて知らせてくれます。

初夏には真白な苞の花を楽しみ、秋に実る直径1.5センチほどの赤い実は食べることができ、紅葉も美しいため、並木としてまた庭木としても植えられます。

十字に見える4枚の花びらのようなものは苞で、横は細く先はとがっています。中心についているのが小さな花の集合体で、これがやがて一個の丸い実となります。小さなサッカーボールのようだと書いてある本がありましたが、くわの実に似ていて山法師の別名は山ぐわです。

「初めて見ました!」という生徒さんの「なんだかこの花(苞)、手裏剣みたいですね」という言葉に笑ってしまいました。都会の花屋さんで花材として届けられるのはごく稀です。

少し前に咲く、同じミズキ科でミズキ属の花ミズキは山法師と似ていますが、苞の形が丸く、先端が少しへこみ、花が出てから葉が出ます。山法師は苞が目立つ頃には葉がすでに茂っています。よく目にするのは白い苞ですが、花ミズキと同じくピンクの苞もあります。葉は枝に対生なので枝を手に取ると表と裏がはっきりしていて、いけるときは枝の方向が決めやすいのです。

大好きな山法師を私も家に持って帰りました。十分観賞した後、花器から引き上げようとすると 苞が柄を付けたままいくつかポロリと落ちました。風が吹いていたらどんな飛び方をするのだろうか、手裏剣ほどくるくると鋭くは飛ばないけれど、先がとがった苞の形はそんな命名もありかもしれません。名前の由来のひとつには比叡山の法師がかぶっていた白い頭巾にちなんだ、というものがあります。

その名前からすると黙して動かずといったイメージを与える山法師ですが、季節が到来すると目に涼し気な苞をかざしてにぎやかににおしゃべりを始める木なのです。(光加)

今月の季語(6月)六月

caffe kigosai 投稿日:2023年5月16日 作成者: masako2023年5月16日

今年の三月には、三月と如月、弥生について記しました。今月は六月と皐月、水無月について押さえましょう。

〈六月〉はカレンダー通りに六月のことです。旧暦五月の異称〈皐月(さつき)〉がほぼ六月にあたります。

笠島はいづこさ月のぬかり道         芭蕉

山越えて笛借りにくる早苗月         能村登四郎

芭蕉の句は『おくのほそ道』所収。「このあたりで無念の死を遂げたという実方中将の墓はどこだろう」というもの。道がぬかっていたのは〈さみだれ〉のせいでしょう。二句目の、笛を借りにというのは〈早苗饗(さなぶり)〉の供応に使うためでしょうか。

五月にも「さつき」の読みはありますが、六月を指すときに使用するとかなりややこしいことになります。皐月を当てるか、いっそ早苗月が私には好ましく思われます。

六月の女すわれる荒筵               石田波郷

六月の万年筆のにほひかな           千葉皓史

「焼け跡情景。一戸を構えた人の屋内である。壁も天井もない。片隅に、空缶に活けた沢瀉がわずかに女を飾っていた」と波郷が自解しています。放心状態でへたりこんでいる様子が読み取れます。万年筆のインクの匂いも湿気の多寡で変わりそうです。降り続く雨にインクが匂い立ち、それを好ましく思う作者なのではないでしょうか。

旧暦六月の〈水無月〉は文字通り水の無い月、つまり梅雨明け後を指します。今の暦であれば、七月を思えばよいでしょう。

水無月の逆白波を祓ふなり           綾部仁喜

みなづきの酢の香ながるゝ厨かな     飴山 實

水無月には川開きや海開きがあります。逆白波を祓うのは、この夏の平穏を祈るためでしょうか。口当たりのよい酢の物が欲しくなり始めるのもこのころかもしれません。あるいは食べ物の傷みを防ぐために利用する酢と捉えてもよさそうです。作者は醸造学の研究者でもありました。

六月は二十四節気では〈芒種(ぼうしゅ)〉と〈夏至〉にあたります。芒(のぎ)はイネ科の植物の種の外殻にある針のような突起のこと。今年の芒種は六月六日、夏至は二十一日です。

芒種はや人の肌さす山の草           鷹羽狩行

大灘を前に芒種の雨しとど           宇多喜代子

一句目は、芒(のぎ)→棘→刺すの連想でしょう。若草が青草となり、茂りを成してゆく時期です。灘は流れが速くて航海が困難な海のこと。そこへ太い雨脚が刺さり続けているのでしょうか。なかなか厳しい景です。

夏至の日の手足明るく目覚めけり     岡本 眸

地下鉄にかすかな峠ありて夏至              正木ゆう子

どちらも「違い」に気付いた句ですが、眸の句は健やか、ゆう子の句は少し病んだ匂いがします。

さて、今年の六月をどの角度から楽しむことにしましょうか。(正子)

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「カフェきごさいズーム句会」のご案内

「カフェきごさいズーム句会」(飛岡光枝選)は
ズームでの句会で、全国、海外どこからでも参加できます。
*日時:第二土曜日 13時30分~ 2時間程度
第七回2023年10月21日(土)13時30分~
*今月は第三土曜日です。

*前日投句5句、当日席題3句の2座
(当日欠席の場合は1座目の欠席投句が可能です)
*年会費 6,000円
★見学(1回・無料)も可能です。メニューの「お問い合せ」欄からお申込みください。

申し込みは こちら からどうぞ

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スタッフのプロフィール

飛岡光枝(とびおかみつえ)
 
5月生まれのふたご座。句集に『白玉』。朝日カルチャーセンター「句会入門」講師。好きなお茶は「ジンジャーティ」
岩井善子(いわいよしこ)

5月生まれのふたご座。華道池坊教授。句集に『春炉』
高田正子(たかだまさこ)
 
7月生まれのしし座。句集に『玩具』『花実』。著書に『子どもの一句』。和光大・成蹊大講師。俳句結社「藍生」所属。
福島光加(ふくしまこうか)
4月生まれのおひつじ座。草月流本部講師。ワークショップなどで50カ国近くを訪問。作る俳句は、植物の句と食物の句が多い。
木下洋子(きのしたようこ)
12月生まれのいて座。句集に『初戎』。好きなものは狂言と落語。
趙栄順(ちょうよんすん)
同人誌『鳳仙花』編集長、6月生まれのふたご座好きなことは料理、孫と遊ぶこと。

  

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