今月の花(2月)_日本水仙
ギリシャ神話の中で、水に映った自分の姿に見とれてしまい、やがて水仙にされてしまったナルキッソス。自己愛を意味する〔ナルチシズム〕の語源となった物語です。美少年が姿を変えた水仙は、色はやはり白でしょうか。形は?
ひがんばな科で別名を雪中花。花茎の頭には5-6輪の小さな白い花、開けばその中央には黄色いカップのような副花冠をつける日本水仙。室町時代にはすでにいけばなにいけられていた記録があるといわれています。その長い歴史から見れば、流派によってはこの日本水仙に細かないけ方を定めているところがあるというのもうなずけます。
たとえば、球根からすっと出ている数本の葉の元に葉を束ねている白い部分がありますが、これは〔はかま〕と呼ばれています。ここをはずし、葉のねじれを直し、その本数や長さを整え、又もとのはかまの中に納めたりもします。
花の美しさはもちろん、市場では葉の長さや一本に対しての枚数により等級が上とみなされ取引されたりするのは、そのつやを抑えた緑の葉が常に注目されてきた結果なのでしょう。
少し曲線を葉につけてみたいときには指で注意深くしごきます。思いっきり好きな形にしてみたい!そんな時はワイヤーを葉の中に通します。切った葉先を下に向け指の間に切った葉の元をきゅっと持ち、その半月型の断面の中央から真っ直ぐ下に向ってワイヤーをいれていきます。中の葉の平行脈を探し当てればどこまでもすっと入っていきます。私にはこの感触がたまらなく、形を作るよりむしろ、小さな一枚の細い葉であっても人体と同じく宇宙を形成していることを認識させられます。
今では越前海岸や伊豆半島、淡路島などに群生している日本水仙ですが、原種は地中海沿岸によく咲いている(ふさ咲きすいせん)だといわれます。しかしどうやって遠い昔に、いわば地球の果ての日本にたどりついたのでしょうか。大陸から渡ってきたとすればシルクロード経由か、海だとすれば球根が波に運ばれてきたのかもしれません。ラッパ水仙や黄水仙、口紅水仙などの美しさとは又異なり、清楚で気品があり芳しい日本水仙。どこか控えめでうつむきかげんのこの花にじっくり聞いてみたい事はたくさんあるのです。(光加)