今月の季語(4月) 桜・花

いつまでも寒い寒いと言い募ってきましたが、春の色のコートをはおるようになりました。ふと風の匂いが変わったと思うこともあります。それは新しく動き出すものや事柄への期待感でしょうか。ちょうど花を待つこころと重なって、一年でもっとも明日を思う季節であるかもしれません。
花待てば花咲けば来る虚子忌かな 深見けん二
〈虚子忌〉は4月8日。花祭の日でもあります。作者は虚子晩年の愛弟子であった人。師を送って年を経た今も、師への想いを抱き続けておられるのでしょう。花を待ち花を賞でるこころを重ね合わせて、丁寧に詠まれた一句です。
初花を木の吐く息と思ひけり 本宮鼎三
花三分睡りていのち継ぐ母に 黒田杏子
じつによく泣く赤ん坊さくら五分 金子兜太
花万朶をみなごもこゑひそめをり 森 澄雄
咲き満ちてこぼるゝ花もなかりけり 高浜虚子
満開の花は壮観ですが、咲き初めの花、三分咲き、五分咲き、……それぞれに味わいがあります。
東京の開花宣言は、靖国神社の境内にある基準木の桜が五、六輪咲いたときに気象庁から発表されます。今年は3月25日でした。この基準木は染井吉野です。学校の桜も染井吉野であることが多いので、私は少なくとも高校生のころまでは確実に、桜とは一斉に咲いてぱっと散り、その後に葉が出てくるものとばかり思っていました。
桜にはさまざまな種類があります。花や葉の形、色、大きさも、出方も種によって異なります。また、山桜の花びらは非常に軽く、風に乗ってはるかまで飛ぶのだそうです。散り方にも個性があるのです。
植物学上の名称が俳句に使われることはまれですが、染井吉野とは違った咲き方を想像しながら鑑賞しましょう。
まさをなる空より枝垂桜かな 富安風生
湯に立ちて赤子歩めり山桜 長谷川櫂
風に落つ楊貴妃桜房のまゝ 杉田久女
また、一日のどの時間帯に詠まれた桜かと、思いを巡らすのも楽しいものです。
朝桜一の鳥居は海に向き 星野 椿
夕桜家ある人はとくかへる 小林一茶
ではこの句はどうでしょう。
さきみちてさくらあをざめゐたるかな 野澤節子
私はこの「さくら」は真昼間の染井吉野だと思っています。正解は知りませんが、さて、あなたはどう思われますか。(正子)
