à la carte_ オクラレルカ
植物の名は仕事上きちんと覚えなければいけないのに、聞いたときにすっと頭に入らないものがあります。
細長い緑の葉をもったオクラレルカ。オクロレウカとも呼ばれるこの植物、カタカナの名前の響きと、なんともあっさりとしたどこか日本的なこの植物の姿が一致せず、この植物に出会ったころは次の時に名前を思い出すのに苦労しました。アヤメ科に属し、長大アイリスという別名もあります。
葉は、同じくアヤメ科の花菖蒲に似ているようにみえるのですが、葉の中央には花菖蒲にある太い線は通っていません。むしろ少し丈は短いですが同じアヤメ科の杜若の葉に似ているかもしれません。剣のような葉先には爪と呼ばれるカギ型の部分もあります。
この時期、大地の下に潜む夏の力にぐんと押し上げられたような葉はその緑をいっそう濃密にしていきます。葉の幅も早春の時のものとくらべると広くなり、高さも1メートルをこすような成長を見せるものもあって、一気に葉に勢いが出てきます。花店にでまわるのは花でなく、この葉のほうです。花はアヤメやアイリスにそっくりな形で色も紫色、花弁の元には黄色も入っていて美しいのですが、あまり見かけないのは、他にも似たような花がこの時期いろいろと手に入るからなのでしょうか。
一株をつくっている数枚の葉は、肉厚ではなく、平たくて折れやすくデリケートです。それだけに取り扱いは注意が必要です。
端午の節句には花菖蒲をいけますが、花とともに整った美しい花菖蒲の葉を必要な数だけそろえたいとなると、それはまた花屋から別料金の請求になることが多いのです。花菖蒲をいける時の約束事はさておき、どうしても自由に、ふんだんに葉を使って作品を青々とさせたいとなれば、この葉の形が似ているオクラレルカの力を借りることもあります。
代わりに使われるからといって葉に主張がないわけではありません。
切りとられても、まだすくすくと伸び続けているかのような清々しい緑は、この時期のほかのどの葉よりも目をひきます。このオクラレルカだけを多めにバッサリと器にいれてみれば、それだけで他の花などいれなくてもいいなあと眺めてしまいます。吹いてくる風が肌にあたる温度も心地よい、梅雨の前の貴重な時を、この葉とともに同じ屋根の下で過ごすのもなかなか良いものです。(光加)
オクラレルカ緑濃くして風薫る 光加