きんぐさり
今までに数えきれない花や枝や葉をいけてきましたが、私がどうしても手にする機会のない植物が日本の中にもまだあります。
その一つが このきんぐさりなのです。
本でこの花を使った作品を見たことはありますが、花屋さんでも実際には見かけたことがないのは、この木に毒があるというのが理由でしょうか。
遠くから見ると黄色い藤の花が下がっているように見えるからか、(きばなふじ)という別名があり、藤とおなじくマメ科ですが、やはり春に黄色い花をつけるエニシダに近く,分類ではエニシダ属なのです。
本州の中心より北で咲いているといわれるのですが、その時期を逃しているのか、北国に行っても間近で見ることはありませんでした。
ところが今年、思いがけなくフィンランドの首都ヘルシンキで「きんぐさり」に出会うことができました。路面電車が行き交う町の中心の大通りの真ん中、緑地帯に大きな木から今を盛りと金の鎖を下げたようにこの花がいくつも咲いていました。原産地のヨーロッパも北では、この木は大きく成長するのだそうです。
北欧独特の澄みきった青い空から緑の葉をつれて光のシャワーが降り注いでいるようでした。花房は思いのほか長く、一番長いものは40cmもあったでしょうか。手に取ってみると一つ一つの花の形はまさにえんどうやスイートピーといったマメ科の花の形と同じでした。夏至の祭りのときはほとんどこの花は終わりなのに、今年は長く咲いているのだそうです。
海に面したヘルシンキの街は大きな起伏があり坂が多く、道に迷ってしまったとき(海の方向はどちら?)と聞けば(どっちの?海だらけだよ)という答えが返ってきます。
何度も来ているこの町ですが、この白夜の季節はこの有名な大通りの数本の「きんぐさり」を目印にして歩く楽しみがありました。初夏から夏にかけて一年で一番外で楽しむ季節になったことを、遠くからでもぱっと目立つきんぐさりはこの国の人たちと一緒に喜んでいるかのように咲いていました。
短い夏至の休みがおわると、サマーハウスにいっていた人たちはそれぞれの街にもどり、長い冬への準備を頭の隅におく季節になるまで、精一杯夏を謳歌するのです。(光加)