à la carte 女郎花
桔梗となでしこ、そこに女郎花が刺繍された母の麻の帯は、小さな子供だった私の一番のお気に入りでした。
炎天下から帰宅、白い日傘をたたんだ母は玄関をあがってきて帯をといて着替え、ぎゅっとしめていたため湿気でしわになったところをちょっと延ばしながら「干しておくのだからそのままにしておいて!後ですぐハンガーにかけるから。帯で遊んでは駄目よ」という声を残して「暑い、暑い」といいながら顔を洗いに奥にいってしまいました。
手刺繍された帯の花たちはいきいきとして、なかでも黄色い花のちょっと糸が盛り上がっているところを触ってみるのが好きでした。女郎花を別名粟花とよぶのは粟独特の粒のように見える黄色の花が寄り集まって一つの花になっているからなのでしょう。
女郎花が秋の七草のひとつで、山上憶良の万葉集の時代から愛されてきたということを教えられたのは後になってからです。おみなえしはどうして女郎花と書くのかと思っていましたが、この花の「女郎」は若く美しい女性という意味で、遊女という意味ではないことも知りました。高さは1メートルにもなり、葉は細かい切れ込みがあって、茎から対生しています。花茎もおなじ黄色で細く、たおやかで軽やかです。よく一緒にいけられる吾亦紅のような、深い赤で重みのある色ともよく合うのは、女郎花の少しくすんでいる黄色のせいでしょうか。
女郎花に対して男郎花(おとこえし)という花もこの季節に白い花を咲かせます。
花の形は女郎花と似ていますが、より大きく丈もあり毛が多く、やはりおみなえし科おみなえし属です。ところがどちらもも古くなると、これはいったいなに?というにおいがしてくるのです。もともと根を乾かして生薬とするのですが このとき敗醤、つまり醤油が腐ったようなにおいを発します。当然いけたあとはこの成分が水の中にも溶けていきますから女郎花をいけたら、花をめでるとともに毎日鼻をきかせ、においがひどくなったら花器から退場願う、これが私のレッスンのときの女郎花をいけるポイントのひとつなのです。女郎花と男郎花、このカップル(臭い仲)なのです。(光加)