a la carte 玩亭忌
本日は10月13日。
玩亭忌である。
すなわち、丸谷才一の忌日。
過日、『たった一人の反乱』を読んだ。
丸谷の筆はいたって軽妙である。
出世コースとも言うべき官庁を飛び出し、民間に降りた男のささやかな“反乱”から物語は始まる。若いモデルとの再婚、彼女の祖母との同居、なんとこのお婆さん、夫殺しの罪で服役し、出所したばかり。
初端から不穏な空気というか、奇妙な関係のなかで主人公、馬淵の周辺に悲喜劇が生じる。それぞれの“反乱”が次の“反乱”へと連鎖する。
まるで、池に投げられた礫のように、水紋がひろがる。
しかし、池の底には動かない石がある。
この石は、丸谷自身かもしれない。あるいは国か。体制と言っても良いかもしれない。
良い小説には普遍性がある。
時代を越えて人間が描かれ、深い思想が水底の石になっている。
丸谷の初期の小説『笹枕』にも通底するものである。
今、日本は、総理大臣というたった一人の反乱によって、戦後日本が守ってきたものが、軋み始めているような気がする。
小説的悲喜劇なら結構。
本物の悲劇の予兆でなければ良いがと、この頃落ち着かない。
玩亭忌に是非、丸谷才一の小説を……。
(栄順)