柿
晩秋、農家の軒先に干し柿が行儀よく吊るされている光景は、自然界のなかに色が急速になくなってくるこの季節には特に目を引きます。吊されている柿を見上げては、さては渋柿だな、とつぶやきます。柿の渋みをぬくためには、干すことの他に焼酎などのアルコールにつけるなど様々な方法があります。
柿は種類も多く、秋に実がなった時はそのさまざまな形が目を楽しませてくれます。柿が私たちを楽しませてくれるのは実りの時だけではありません。春から夏の、陽を照り返すような萌える若葉、初夏の薄緑の花。そして秋の紅葉は、道に落ちているとその自然の作り出した微妙な色合いに思わず手にとってみた方もあることでしょう。
柿は、気候が温帯に近いところでは、世界各地にあります。ローマに行った時も枝に数個実った柿を切っていけたことがあります。イタリア語でもカキとよんでいると教わりました。カキという言葉は学名(Diospyros kaki)の最後につきますが発音しやすいこともあるからでしょうか、数か国語で(かき)で通じます。
柿の木は家具にもなるくらい固く、その枝は太くなるとのこぎりを入れるのもなかなか大変です。実は、なます、お菓子、柿酢など食料としてあげていけば留まるところを知りません。奈良には柿の葉寿司がありますが、柿の葉でくるんでいるのは、含まれるタンニンが腐敗防止に役立つのでしょうか。平たい種だって用がないわけではありません。薄いので、種飛ばし大会で活躍します。
柿のなかでも豆柿は、この季節のお稽古にも出てきます。木そのものは10メートルを超すものもある一方、下がっている実の胴回りは直径10mmくらい、先はわずかにとがり、長さは15mmくらいでしょうか。ちゃんとヘタもついていて、枝に鈴なりになっていることもあります。小さくてもしっかりと柿の特徴を受け継いでいるように見受けられますが、豆柿は柿とは属が違っていて学名にもkakiという字はつきません。
豆柿からも青柿のころに柿渋を取ります。柿渋は腐敗防止の下地の塗料などで知られていますが、近頃は、化粧品にも用いられているそうです。
塗ることにより劣化を防ぐ訳ですから、肌の老化に、つまりアンチエイジングにも当然役立つのでしょう。生活に密着している柿にさらに一歩ふみこんでもらって、その活躍をこれからも大いに期待したいところです。(光加)