ふうせんとうわた
「それはそれは。やっぱりね。」
この穏やかならぬ会話、私のスタジオでのお稽古の時のことです。
「爆発」したのはその前の週にお稽古で使ったふうせんとうわたの実です。自宅でいけておいたところ、丸い緑の実の一部が気が付かないうち破れていて、なんとそこから黒い種をつけた綿毛のようなものがでていたという生徒さんの報告です。次の日には、種の一部が部屋の中にふわふわ舞いはじめているということでした。
これより少し前に実る、蔓に緑の小さな実のつくふうせんかずらの実より、ふうせんとうわたの実は大きくなります。流線型の葉をつけ、夏にかけて白い小さな花が咲きます。しかし表情がより面白いのは実がついてからで、一本の緑の枝に大きければ直径7センチもある丸い実が数個なります。内部は空洞に近く、表皮も薄めなので見た目にも軽やかで、昔、紙風船をついた時の風船を受けた手の感触を思い起こさせ、思わず手にとってみたくなります。
しかし、ちょっと待ってください。ミルクのような白い液が出ているのがおわかりでしょう。液には毒があり、触った手で眼をこすると後で医者に駆け込むことになります。触った手は十分に洗ってください。
丸い表面にはごく柔らかい棘があり、その実は大きくなるとてっぺんが少し茶色がかり、やがて突然種が出てきて驚かされます。この南アフリカ原産の植物のユーモラスな姿は、今年スイスや、シンガポールの花市場でも見かけました。大きく膨らんだところを裂いててみると 黒い種が中央にびっしりとついていました。
この丸い実は心休まる形なのに、個性的な植物と組み合わせても違和感がなく、また、たくさんの強く鮮やな色の中においても埋没することもなくしかもしっかり主張しています。一つまた一つと手の中で束ねていけば、風船たちが空に浮き上がり、どこかに連れていってくれるような錯覚に陥るかもしれません。
秋の空気を胸の底まで大きく吸いこみ、もう我慢しきれなくてとうとう爆発して種が出没するこのふうせんとうわたはどこか動物的な植物です。
空間の中で浮遊しているような姿は、植物界のマンボウ、ともいえるでしょうか。(光加)