今月の花(1月) 梅
静岡県熱海市のMOA美術館では国宝に指定されている尾形光琳の紅白梅図屏風が、梅が咲き始める少し前から咲き終わる頃まで展示されます。
この前に立つと紅白の梅の花の美しさとともに、私は光琳の描いた躍動感のある枝の動きに注目してしまいます。
実際の梅の枝の独特な線は、春華やかに咲く桜の枝が描き出す線とは違い、伸びていくうちに直面する暑さや寒さ、風が揺らして耐えたあと、大雨や乾燥した時期、それを梅は枝に忠実に映していくような気がして、時の軌跡としての枝の線に心惹かれるのです。若い緑のまっすぐな枝も生命感にあふれています。
苔梅と呼ぶ苔のついた梅をいけることもあり、梅は枝の向きや特徴に注意していけます。
「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる」
(凡河内躬恒 古今和歌集)
清楚な香りは万葉の時代から愛されていますが、様々な香りが充満している現代から比べれば、闇を引き出すことで、その香が当時の人々にとってどんなに特別なものであったかが想像できます。
万葉集では白梅のみが登場し、紅梅が出てくるのは後になってからですが、その紅梅の枝を切ってみると、中がうっすらとピンクになっているものを見かけます。紅梅は白梅より少し遅れて咲きます。野梅系、紅梅系、豊後系、色も白から淡紅、紅と多種で、中国生まれのもともとの梅の花は花弁が5枚ですが、今はたくさんの花びらを持つものもあります。
梅は日本人の生活に入り込み、梅酒、梅干しから始まり、薬にも用いられ、その酸味のせいもあるのか梅何とか、と名前につくと体に良さそうに思えてきます。
いつも通る路地で薄ピンクの大きな八重の花を楽しませてくれる梅が、実をとる豊後梅だと知りました。ブロック塀の外の枝もきれいに整理されていたので、家の人が大切にしているのがわかりました。もうすぐ花を見られると楽しみにしていたのに、久しぶりに通るとそこには新しい家が建っていました。あの梅がどこかで根付いてくれて春の到来を待つ楽しみを誰かに与えてくれていたらと願っています。(光加)