今月の季語(一月) 寒

あけましておめでとうございます。
冷え込みの厳しい三が日となりました。私の住む関東南部でも、二日の朝、外水道が凍結しました。雪国の人に笑われてしまいそうですが、人生初の出来事です。
すでに十分寒いですが、いよいよ一年でいちばん寒い時期となります。二〇一五年の〈寒の入〉は一月六日、カレンダーに〈小寒〉と記されている日がそれにあたります。字面からしてさらに厳しい〈大寒〉を経て〈寒明〉までのひと月ほどを、〈寒〉〈寒中〉〈寒の内〉と呼びます。これらはいずれも「時候」の季語です。
きびきびと万物寒に入りにけり 富安風生
大寒の一戸もかくれなき故郷 飯田龍太
約束の寒の土筆を煮て下さい 川端茅舎
〈寒○○〉という形の季語には〈寒晴〉〈寒の雨〉など「天文」の季語も多いですが、意外に多いのが「生活」の季語です。
〈寒卵〉は鶏が寒中に産んだ卵。他の季節より滋養が高いとされます。〈寒紅〉は寒中に作られた口紅。品質がよいと、もてはやされました。卵も口紅もともに季節感を失った現代では、ぴんと来ない季語でしょうが、自然のままの暮らしを思えば、貴重な理由がわかります。
寒紅や鏡の中に火の如し 野見山朱鳥
寒卵わが晩年も母が欲し 野澤節子
〈寒造〉は寒中に酒などを造ること。この季語は、ことに左党の方には分かるでしょう。寒中の酒造りは仕込みに日数を要する分、良質の酒になるといいます。
湯気ひいてはしる蔵人寒造 大橋桜坡子
〈寒稽古〉〈寒泳〉は日本人の好きな精神論かもしれませんが、寒さをものともせず練習を重ねれば、たしかに上達しそうです。
角立ててたたむ手拭ひ寒稽古 戸恒東人
陸続と来る寒泳の眼かな 大島雄作
こうしてみてくると、寒の生活関連の季語には「寒だからこそ」「寒なのに」のニュアンスがあるようです。ですが、寒が他の季節より寒いだけの時期になりつつある昨今、実感をもって読み取れなくなってきてもいます。
例えば〈乾鮭(からざけ)〉。鮭の内臓を取り、軒下などに吊して乾燥させた保存食です。現代では保存方法も輸送手段も発達したため、すっかり姿を消しました。
乾鮭も空也の痩も寒の中 芭蕉
実は私に見たことすらありません。芭蕉のこの句を読むときはいつも、〈棒鱈(ぼうだら)〉と〈新巻(あらまき)〉を足して割ったものを想像しているのです。
暖かくて便利な暮らしはありがたいです。そのために失う生活習慣を惜しむことは、感傷にすぎないかもしれません。ですが、季語として先人からひきついだものを、次の世代へ送ることについては、いつも意識するようにしていたいものです。
(髙田正子)
