今月の花(5月)しゃくなげ
高原の土産物店の木の皿に彫られたピンクに着色された花は、7、8輪ほどが丸く固まり放射状に葉を従え、まるで女王様のようでした。その花は白山石楠花か東石楠花だったのでしょうか。日本にはもともと6種類の石楠花があるそうです。
いつかこの花をたっぷりといけてみたい、という願いは後年ロンドンのウエストミンスター大聖堂のフラワーフエスティバルに招待された時に実現しました。私の担当は聖堂内のChapel of Holy Ghost,聖霊のチャペル。奥行4メートル、幅は3メートルほどのチャペルにいけばなをという依頼でした。
つつじ科のこの花は、17世紀にアルプスから、後にヒマラヤや世界中の種からとったものをイギリスで交配し、今では西洋しゃくなげとして1000種以上あるといわれます。
ロンドンにある植物園の研究所にある広大な庭の石楠花の一画に案内された時、ピンク、紫、黄色、オレンジ、白い花の中に濃い赤紫色の斑点のもの、赤でも中が白いものなど、地につくばかりに枝を広げ咲き誇っている石楠花にしばし足がとまり、花たちをかき分けながら進みました。
本来なら伸びすぎた枝を切るところを、この催事に使わせていただくため数本はそのままにしておくようお願いしてくださった同じ流派のロンドン支部会員に感謝。さてどの枝をと迷い、吟味する一時は至福でした。
管理の男性は、「そんなに好きならエクスベリーガーデンは行かれました?」と聞いてきました。それは石楠花を愛したロスチャイルド家のライオネル ド ロスチャイルド氏の広大な植物園だったのです。一族の名は、莫大な資産を持ち、様々なビジネスを展開する一族というイメージ以外、思い浮かぶのは家名のついたワインのロートシルトくらいでした。
チャペルには赤い花のついた2m~3mの石楠花を数本選び他の植物といけたのですが、花は長い枝の先に咲くため、思う所に持ってこようとすると、重さでくるりと枝先が回ります。石楠花の花を長い枝つきでいけるのはこちらでも珍しいらしく、華やぎを加えたチャペルで、なるほどこれがいけばなかといわれました。花の周りを囲んでいる葉には毒があるということです。きっと、葉の騎士たちが気高いクイーンをしっかり守っているのに違いありません。(光加)