今月の花(七月) 亜麻
見渡す限り青い花が咲いている草原に分け入った時「うわ、きれい、なんてきれい!!」という平凡な言葉しか出てきませんでした。
仕事も無事に終わり東京に帰る前日、転任で英国に住んでいる門下生の一家が連れてきてくださったのです。ロンドンから一時間も車を飛ばしたでしょうか。車を広い道に置き、人がやっと通れるくらいの細い道にはいると、そこは一面ブルーの花の野原。
その可憐な花たちの向こうから茶色の小さな犬を連れて歩いてきた男性とすれ違い挨拶をかわしました。ふと気が付くと私たちのほかには誰もいませんでした。青い花野のそこここに、鮮やかな赤いポピーがすっと立っている姿が印象的でした。わたっていく優しい風が時々花たちを揺らしていきました。
青い花の名前を、草月ロンドン支部の前支部長のMさんに尋ねると、それは亜麻という答えがかえってきました。亜麻は「亜麻仁油」をとり、また種は健康食品や食料にも用いられるそうです。
ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」はおなじみで、日本でも同じ曲名の歌が流行ったことがあります。薄い茶色の髪を亜麻色の髪というのだそうです。亜麻色は色としては生成りを想像していただくと近いかもしれません。月の光の色という人もいます。
亜麻は英語でflaxといい、学名はlinum です。フランス語でlin(ラン)、その繊維がリネンになります。亜麻布(linge)と呼ばれるリネンは肌に心地よく、洗濯しても強いことから肌着に用いられ、これを総称するランジェリーの「ラン」もここから来ています。
繊維は空気をよく通す構造になっていて夏は心地よく、昔から今に至るまで衣服はもとよりテーブルクロスやハンカチなど、生活のあらゆる場面で使われます。
一般に麻といいますが、アマ科の亜麻、カラムシ科の苧麻など、植物としては日本古来から存在していた大麻草以外に様々な種類があります。麻布のように繊維にしたものの総称として日本では麻と呼んでいます。
蒸し暑い夏にリネンのハンカチの角にきちんとにアイロンをかけるとき、空の青さを花びらに映したような亜麻の花が一面に咲いている爽やかなコッツウォルズのあの草原をきっと思い出すことでしょう。(光加)