カフェネット投句(六月) 飛岡光枝選
「蛇の衣」は、森羅万象に詩情を託す日本人の面目躍如といえる季語。たぶの大樹に揺れているというからには、この抜け殻もそうとうの大きさか。もちろん実際にそうではなくそう思えたのだ。「たぶのきに掛け」という淡々とした言い様が生きた。蛇が、松の枝に羽衣を掛けた天女のようにも思えてくる。
【入選】
ペダル踏むこの道の果て夏の雲 勇美
上五中七下五がばらばらになってしまった。言いたいことはわかるのだが、俳句は調べを生かさないと句が広がらない。整えると「夏の雲この道の果てまでペダル踏む」だがよりシンプルに、より心を飛ばして「ペダル踏む入道雲の果てまでも」。
湧水を慈しむ町花藻咲く 涼子
静岡の三島や熊本の江津湖周辺など水とともに暮らしている町。「慈しむ」という心が「藻の花」の風情によく合っている。
潮風に洗わる座敷島の涼 弘道
言葉と要素が入り過ぎてしまった。俳句はすっきりが肝要、夏の句はことさら。「潮風の洗つてゆくや夏座敷」。受身は往々にして重くるしくなる。
七島のみえて涼しき墓石かな 隆子
伊豆だろうか。「涼しき墓石」に故人への思いが伝わる。
(投句より)
「葛切を盛りて器の涼しさよ」
料理を器に整える様子を描く際、いろいろなことばが使われます。「盛る」は普通に使われますが「葛切」には合いません。蜜に入った様子はよく「沈む」と描写されます。質感を表現すると同時に夏の場合は涼し気に、そして何よりおいしそうにが肝心です。掲句の場合「葛切のゆれて器の涼しさよ」などでしょうか。この句の場合は「器」もより踏み込んで「硝子」「ギヤマン」「わっぱ」などより具体的にする必要があります。
「トーストはエキゾチックやバナナ載せ」
「バナナ」は夏の季語ですがそれだけで季節感を出すのは難しい季語です。掲句は「エキゾチック」に夏らしさを盛り込もうとした意欲作ですが、もう一歩具体的な描写が必要。「バナナの香フルーツバーラ昼暗く 松本たかし」は真夏の町の様子が感じられるバナナの句です。