浪速の味、江戸の味 (四月)桜餅
桜の花が開くころ食べたくなる桜餅。関東と関西ではその姿は異なる。関東では小麦粉の生地を薄くのばして焼いた皮で餡を巻き、塩漬けの桜の葉で包む。関西では、道明寺粉の生地で餡をくるみ、桜の葉の塩漬けで巻く。関東の桜餅はさっぱりとしたクレープのような、関西の桜餅はもっちりとした食感である。初めて長命寺ゆかりの桜餅を食べたのが三年前で、それまでは道明寺粉の桜餅しか知らなかった。姿、食感は違ってもそれぞれおいしいし美しいと思う。
桜餅は桜の名所で知られた江戸向島の長命寺の門番山本新六が考案し売り出したのが始まりといわれている。文化・文政年間(1804~1830)には大評判となった。いつごろから小麦粉を原料とするようになったのかは不明である。江戸後期の随筆『嬉遊笑覧』には、初めはうるち米の粉仕立、後に葛粉で作られるようになったとある。他の文献では小麦の粉を練り蒸して生地にしていたと書かれているので、店それぞれが工夫していたのであろう。評判になった桜餅は各地に広まる。
大坂では道明寺糒(ほしいい)を原料にして作られた。道明寺は藤井寺市にある菅原道真の叔母、覚寿尼ゆかりの寺である。覚寿尼は道真が太宰府に下った後、毎日陰膳を供え無事を祈った。そのご飯のおさがりが病気回復にご利益があったので広く求められるようになったといわれている。道明寺糒は、もともと飯を干したものであった。現在はもち米を水に浸した後、蒸したものを乾燥させ粒子をそろえた道明寺粉が使われる。
どちらの桜餅も桜の葉の塩漬けがあればこそで、桜餅の風味の立役者である。
初役にいどむ稽古や桜餅 洋子