今月の季語(七月) 祇園祭
思い返せば、オリンピックの延期が決まったころから、各地の行事がどっと中止を決めました。青森のねぶた祭(八月)が中止を発表したとき、とっさに祇園祭(七月)は!? と思ってしまった私です。疫病退散を祈る祭とはいえ、それはそれ、これはこれ。ニュースが祇園祭の中止を告げたのは、それからほどなくのことでした。
鉾にのる人のきほひも都かな 其角
祇園祭は、七月一日の吉符入り(きっぷいり)から三十一日の疫(えき)神社の夏越(なごし)祭まで、ひと月もの間、連日、京のどこかで何かの行事がある多彩な祭です。コンコンチキチンという祭鉦の音が響き始めると、京に生まれ育った人の血が騒ぐ、とも聞きます。
祇園囃子ゆるやかにまた初めより 辻田克巳
何度も繰り返される調べにのって、螺旋階段をのぼるように心が昂っていくのかもしれません。
京とは縁もゆかりもない私の血まで騒ぐのは、年に一度の同窓会のような吟行会を、祇園祭をターゲットに続けているからです。今年で十六回目になるはずでした。誰かがいない年はありましたが、計画ができなかったのは初めてです。
https://yurikobonz.exblog.jp/18550383/ 祇園御霊会(1)両手の会の同窓会
https://yurikobonz.exblog.jp/18582254/ 祇園御霊会(2)京都通いの始まりは
https://yurikobonz.exblog.jp/18692613/ 祇園御霊会(3)貴船川床
https://yurikobonz.exblog.jp/18698511/ 祇園御霊会(4)京の町
今回はいつもと様子を変えて、URLを貼ってみました。祇園祭同窓吟行会を始めたのは二〇〇五年です。ちょうど十年目までのトピックスをブログにまとめたものです。当時のガラ携による撮影ですが、写真付き。気分だけでもよろしければどうぞ。
居祭(いまつり)であった大船鉾(おおふねほこ)が二〇一四年に再建復活し、四十九年ぶりに前祭(さきまつり)と後祭(あとまつり)の構成で執り行われるようになりました。祭も世につれ人につれ。であれば来年の祭はいかなる様式で? 少なくともマスクしながらはあり得ない。さてさて。
毎年新作が生まれる祭ですが、過去の名作をいくつか読んでおきましょう。
暁の涼しき雨や裸鉾 松瀬青々
辻々に鉾の枠組みが建ち上がって、さっと過ぎる雨に打たれています。美々しい装飾はこのあと。
ゆくもまたかへるも祇園囃子の中 橋本多佳子
祭ではなく他に用があった作者でしょう。一日中「ゆるやかに」繰り返されるお囃子の中を、往復ともに抜けたのです。多佳子には〈祭笛吹くとき男佳かりける〉という艶っぽい祭の句もあります。
くらがりへ祇園囃子を抜けにけり 黒田杏子
山鉾の提灯に灯が入りますし、夜店も煌々と電球を点します。がそうした場所をついと逸れると、真っ暗。それが京の町です。
九十の厄こそ祓へ鉾ちまき 深見けん二
山鉾で売られる特製のちまきは食べられません。厄除けの護符です。買って帰り、玄関口に飾ります。
東山回して鉾を回しけり 後藤比奈夫
十七日の巡行当日の「辻回し」のさま。鉾は直進しかできません。辻に到ると、人力の荒技で進行方向を九十度回転させるのです。作者曰く「鉾の前方に立って扇を振る扇方になって、自分が鉾を回しているつもり」とのことです。(正子)